《MUMEI》
叫び
「あ―――あっ!俺のバカっ!」

芹奈に背中を向けて金網のむこうの

青空に投げるみなたいに、大きな声で言った。

「もっと早く、俺がちゃんと伝えてたらなーっ。
そしたらもっと違う結果だったかもしんねーのに」


大翔の声には湿っぽさとか恨みがましさとかは全然なかった。

ふり返って芹奈を見た大翔の表情にも。

「相手に好きなやつがいるからって
自分の気持ちが消えないのは、俺も同じっ!」


そう言って大翔は、いつもの人なつっこい顔で笑った。

「しょーもなっ!」

―――ああ、こういうとこ、大翔だな……。

「ごめんね……」

「バーッカ、謝んなよ。それなりに覚悟そてたしさっ」

ズボンのポケットに手を入れながら笑った大翔は

それからゆっくりと、笑みを薄くした。

「ん、じゃ先行って。俺はもうちょっとここにいるから」

「え……うん、でも……」


「今はひとりになりたい。頼むよ」

大翔は笑ったままだったけれど

その言葉の輪郭はほかの返事を受けつけないくらい

くっきりとしていた。

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