《MUMEI》

少女を追い外へ
そして、さして探して回る事もなくその姿は見つかった
館の、裏側
少女は其処に立ち尽くしたまま、顔を伏せている
その視線の先には
先に少女を追いかけていった筈の執事
大量の血液を流しながらその場に倒れ伏していた
トトン、トン、トトン
少女の心臓の音が微かに響いたかと思えば
「……嫌、嫌ぁ!」
突然に蹲り、叫ぶ声を上げ始める
トン、トトン、トン
音が鳴れば鳴り響く度、少女の姿が醜く歪み始める
少女を醜く歪ませてしまったのはヒトの憎悪だと執事は言っていた
ヒトを、殺めてしまいたいと思う程の憎悪
受け取るべきモノが多すぎ、その箍が外れてしまったのだ、と
まだ息が合ったらしい執事の震える声が呟いた
「……一度箍が外れてしまえばあとはもう堕ちるばかり。もう、手遅れだ」
トン、トン、トン
規則正しくその音は鳴り続け
少女はふらりふらりその音に合わせ踊る様な素振りを見せ始めた
箍が、外れた
その言葉通り、少女は歪んだ笑みを浮かべ笑う声を上げながら唯回り始める
「……小澤様。どうか、お嬢様を救って上げて下さい。せめて、ヒトである内に」
「……最初から、これが目的だった訳か?」
「え?」
「あのガキ殺させるのが目的だったのかって聞いてんだよ」
その意図の方が強いのだろう事を指摘してやれば
執事は僅かに苦笑を浮かべる、それが返答
「……あなたは、お嬢様が待ち望んでいた鬼。だから――」
言葉も途中、執事の息は切れた
亡骸と化した執事
身日開いたままの眼から血色の涙が伝い落ちる
その様を酷く憐れに思いながら
小澤は執事の眼を閉じさせてやると、少女の方へと向いて直った
「皆、皆堕ちればいい。堕ちればいいのよ!!」
甲高い声を上げながら
少女は息絶えた執事の身体をその手で千切り始めた
骨が軋み、そして折れる音。飛び散る血液
全身その色に染めながら更に笑う少女の姿はすでにヒトではなくなってきている
その姿はいずれの自身の成れの果てなのか、と
小澤は嘲笑を浮かべながら、少女へと銃を向ける
「……堕ちるなら、お前だけで堕ちろ」
言い終わりと同時に発砲
弾は少女の頭を貫通し、だが少女は倒れる事無く其処に立ったままだ
「……なら、ちゃんと頃して。私を、ちゃんと死なせて」
額から血を流しながら
少女は覚束ない足取りで先に逝った執事の元へ
崩れ落ちる様に膝を崩し、泣き始める
「……もう私は、鬼囃子を奏でたくはないのよ」
トン、トン、トトン
少女の新音がまた鳴り響き、叫ぶ声が聞こえる
見開いたその眼からは紅い涙を流し、喉を掻き毟り始めていた
「……この音が鳴るたび、私はヒトを殺してしまう。いや、いーー!」
喚き散らすばかりの少女へ
小澤は見るに居た堪れなくなり
銃を手放し落とすと、刀を握り返した
撃って駄目ならば首を斬り落とせばいい
一番簡単だろう事に今更気付き
小澤は口元に笑みを浮かべながら刀を構え
そしして少女の首へと振って向けた
素早いソレに少女が気付いたのは、刃が首に触れた瞬間
眼を見開いた次の瞬間には、少女の首が鈍い音を立て下へと落ちていた
「……これで、満足か?」
少女の返り血を大量に浴びながら、笑みを浮かべて見せる小澤
トン、トン、トン
感情が更に薄れていくのを感じながら
その中に、小澤は鼓を打ったような自身の心臓の音を聞いた
「……アンタも、これで本当の鬼になった。良い音」
高宮はゆるり小澤へと身を縋らせながら
血で汚れた小澤の頬を指先で撫ぜる
「部屋、帰ろ」
小澤の顔を正面から見据え
自身へと向けられる憎悪の朱に悦に入った様な笑みを浮かべながら
高宮は小澤をつれ、部屋へと戻ったのだった……

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