《MUMEI》
うれしいな
大きなおなかで吊革につかまる様子が

少し大変そうだった。

ふっと侑が顔を上げた。

すぐに本を閉じて立ち上がると、若い妊婦に声をかけた。

「ここどうぞ」

「え?いいんですか?」

目をまるくした妊婦は、でもやっぱり

立っているのがつらかったのだろう

素直に侑が譲ってくれた座席に腰を下ろした。

肩にかけていた鞄を膝をおくと、顔を上げてほほえむ。

「どうもありがとう。助かります」

「いえ。どうせすぐ次降りるんで」


……侑くんの降りる駅、まだまだ先なのに

芹奈はそっと笑った。

―――うれしい。

好きな人がやさしいと、すごくうれしい。

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