《MUMEI》
全ての始まり
夏期長期休暇と呼ばれる日も、残り1週間と迫っていた。

「暇だよ〜歩雪くん!!」

「オレに言われても」

「ぶ〜!!」

今宵と歩雪は、相変わらずどちらかの家で過ごす毎日。

今日は今宵の家のリビングで涼んでいた。

「秋葉ちゃん達からも連絡ないし!!・・・・・・やっぱり2人で遊んでるのかな?」

「さぁ。どうだろ」

「最近仲良いもん、あの2人」

何ていうか、琴吹くんが無理矢理近づいてる感じなんだけど秋葉も嫌そうではない、みたいな?

今宵はちょこんと小首を傾げる。

その時、歩雪のポケットから甲高い音が鳴り響いた。

「あ、電話」

「誰?」

「あー、噂をすれば」

歩雪は携帯のディスプレイを見てため息を
つくと、今宵に向けた。

「琴吹くんじゃん!!早く出ないと!!」

「多分切れないよ。しつこいから」

歩雪は呆れて見せると、通話ボタンを押して耳にあてた。

何かやな予感がする。

「何」

『何って冷てーな!!親友からだぜ?』

「用は?」

『シカトかよ!!まぁいーや。それよりさ!!今秋葉と一緒にいんだけど、お前ん家行っていーか!?』

「は?」

『だーかーらー!!お前に会いに行こうと思ってんの!!今宵も誘って!!』

「今こーの家で一緒にいるけど」

『はぁ!?お前らどんだけ一緒にいんだよ!!』

「うるさい。用はそれだけ?切るよ」

『わー!!ちょっと待てよ!!そりゃ2人の時間を邪魔されんのはイヤだと思うけどさ、いーじゃねぇか少しぐらい!!
オレらお前に会いに行くのすっげー我慢してたんだから!!』

「何で」

『この前今宵の誕生日だったろ?だから早くお前らがどうなってっか気になったけどさ、遠慮したんだよ、遠慮!!
2人の【ラブラブタイム♪】に会いに行くのは悪いと思ったからな!!』

「キモい」

歩雪は一言冷たく言い放つと、ブツッと通話を強制終了させた。

「何だって?琴吹くん」

「・・・・・・たぶん今からここに来るよ。秋葉と一緒に」

「そうなの?じゃあお菓子準備しないと!!」

今宵はそう思い立つと、ソファーから立ち上がる。

その瞬間。

あれ・・・・・・?

今宵の体はフラッと力が抜けたように、床に膝をついた。

「こー!!?」

歩雪が慌てて今宵の体を支える。

「どうした!?」

今宵は歩雪の腕の中で力なく首を振ると、虚ろな目で小さく答えた。

「・・・・・・わかんない。急に、力が抜けて・・・・・・」

どうして、急に・・・・・・?

今宵は働かない頭で考える。

「横になる?」

「ううん。大丈夫。たぶん貧血だから・・・・・・。さっきより、大丈夫だし」

「・・・・・・・じゃあとりあえず大人しく座ってて」

歩雪は静かに今宵を抱き上げると、ソファーに座らせた。

そして、足を台所に向ける。

「台所、借りるよ。今水持ってくるから」

「ありがと・・・・・・」

今宵は歩雪の後姿を見送りながら戸惑っていた。

おかしいな・・・・・・。

貧血なんかたまにしかならないし、なったとしてもこんなに酷くは無いのに・・・・・・。

―この出来事は、ただの始まりに過ぎなかった。

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