《MUMEI》

 翌日、大学の授業もそつなくこなし放課後
今日は珍しく父親から仕事での呼び出しもなく
このまま何処かへ遊びにでも行ってやろうかと考えた矢先の事だった
まるで見計らったかのように携帯が着信に震え始める
「……」
相手は、やはり父親
このまま無視してやろうかと思いもしたのだが
後々、文句を言われてはそれはソレで面倒だと
仕方なしに出てやる事に
『広也。今から暇か?」
「暇じゃねぇ」
『もし暇なら少しこちらに来てくれ。場所は――』
木橋の返答を端から聞くつもりなど無かったのか
父親は一方的に場所を伝え、通話を切っていた
有無を言わさぬソレに、木橋は舌を打ったが
もし仕事関係ならば行かない訳にはいかない、と
言われた場所へと気が進まないまま向かう
「広也君。やっと来た!」
指定された其処へと向かってみれば
手を振りながら木橋を迎えたのは父親ではなく
遠目には見覚えのない男
だがその距離が近付くほどに、木橋はその顔に見覚えがある事を思い出した
「――っ!?」 
つい先日の夜の相手
何故此処に居るのか、つい問い正してしまいそうになるのを
だが傍らの父親の手前、何とか堪えた
「……二人は、知り合いなのか?」
親しげな雰囲気を漂わす木橋達へ、父親は意外そうに声を上げる
違う、と反射的に木橋が否定しようとした寸前
「ええ。昨日、町で偶然お会いしたんです」
明らかに、昨日とは違う声と表情
傍から見れば好印象のもてるサラリーマンなのだが
木橋には、そうはみれなかった
「オヤ……じゃない。社長、それで彼は――」
「あ?ああ。今回、彼には出向という形で暫く内に来て貰う事になった」
これは果たして偶然なのか
混乱の渦中に居る木橋に、その判断が出来る筈もない
「改めまして、俺は高野 律。宜しく」
満面の笑みで差しだされた手
それを反射的に取って握手を交わしながらも
木橋は未だに混乱したままだった……

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