《MUMEI》
また会ったね
「あ」

すぐに降りると言った手前

妊婦の目の届くところにいるわけにはいかなかったのだろう。

侑は車両の端のほうへ歩いてきて

そこで芹奈に気がついた。

「また一緒だったんだね、帰りの電車」

そう言いながら侑は、芹奈のむかいのポールにもたれる。

「そうだね」と芹奈は笑った。


この気持ちは報われないってわかっていても

彼のそばにいるだけで、こんなに嬉しい。

侑とぽつぽつ世間話をした。

侑を見つめながら、そういえば、と芹奈は思い返した。


侑くんと初めてしゃべったのも

帰りの電車だったな。

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