《MUMEI》 4 オニバヤシ「なぁ、ベッドに横になれよ」 部屋へと戻るなり、高宮は小澤をベッドへと押し倒す その上に乗り上げる高宮 だが今から小澤達が行おうとしているのは、愛行ではない 純粋なる、殺し合い トン、トン、トン 自身の中で鳴る鬼囃子を聞きながら 小澤は自身へと覆い被さってくる高宮を感情の籠らない眼で見上げる 「……アンタのその眼、やっぱりいいな」 高宮は悦に入った表情で小澤を見下ろし、 愛おしい者に触れるかの様に、愛欲も顕わに小澤へと手を伸ばす 「……あの時、見た瞬間、アンタがどうしても欲しくなった」 その瞬間まで、全く見ず知らずの他人だったというのに 何故、狂う程に欲してしまったのか 高宮はその答えが解らない事に焦れ、小澤へと求めてしまう 「……きっとこの音の所為だ。この音が、俺を狂わせた」 規則正しい音を奏でるソレに聞き入る高宮 無防備に自身へと凭れてきたその身体 今なら、簡単に殺れる 段々と大きく鳴り響く鬼囃子を聞きながら 深く、濃い朱に染まっていく視界の中で小澤はゆるり銃を取って出す 「……ヤッてる最中、そんなもん出すなって」 萎えるから、と吐き気がするくらい綺麗な笑みを高宮は浮かべて見せる そう、この顔だ 小澤の妻子を殺したあの時と、全く変わらない歪んだ笑い顔 一体、何を思っていたのか 解らない感傷に、だが今更だ、と 小澤は自嘲気味に肩を揺らす 「……アンタ、俺の事殺したいんだろ。だったら俺の事、愛してくれよ」 死を前提にその身を繋げれば解るかもしれない、と 程々安易な考えで小澤を求める高宮 何故これ程まで、自分からの愛情を求めるのかと 必死な高宮の様は、小澤にはいっそ哀れにさえ見えた 「しずる」 憎むべき相手へ、自身が持ち得る全ての愛情を注いでやる その後に待つのは、悲惨さしかない殺し合い だがそれをいっ時でも忘れ、この哀れな子供を愛してやろうなどと 既に自分も狂っているのだと 小澤は更に嘲笑を浮かべて見せた 「子規……俺は、アンタに愛されたかった」 全てを失っても構わない、たとえ相手の全てを奪ってでも そんな強い衝動がまだ自身の中にあった事に 高宮はどうしてか幸福そうな笑みを浮かべて見せる この子供は、多分寂しかったのだ 「誰も、俺のことなんて愛してくれなかった。ずっと、求めてたのに……」 初めて洩らす、心からの本音 高宮がどういう家庭環境に在ったのかは最早知る術はない だが恐らくは愛情薄で育ち それ故にこれ程までに屈折してしまったのだろうとは想像に易くない 「……これで、最後だ。愛してよ」 切に求められ、小澤は何を答えて返す事もしなかったが 高宮の身体を優しく抱いてやっていた 「し……っ」 名前を呼び掛けた唇を塞いでやり、呼吸すら奪う こういう行為には不慣れなのか 息を継ぐタイミングが解らないらしく、苦しげに眉を寄せる 一度達するまでやてやれば満足するだろうと 小澤の手が更に深く高宮を抱き込んだ 「……アンタの手、優し過ぎる。何で……!」 「酷くされた方がいいのか?お前は」 愛行の中にまで残酷さを求めてしまうのは 高宮の中で小澤に対しての後ろめたさが若干でも現れてきたからか それとも 「……好きだ。子規」 せめて憎しみだけでも、小澤の心を支配してしまいたかったのか 最早、高宮自身解らなくなっていた 「……ぁ」 その思いの丈を全て吐き出すかの様に達してしまえば 高宮は穢れ一つない、無垢な笑みを浮かべて見せた 「アンタも、一緒、に……」 一人は嫌なのだと求められ 小澤はこれで最後だと、高宮へと向け優しげな笑みを始めて浮かべて見せながら 高宮が欲するがままに与えてやる 「……っ」 絶頂に身体を震わせたと同時 小澤はせめてその感覚の中で逝かせてやろうと 高宮の胸元をナイフで深々刺し抜いていた 肉を抉る感触、流れだす血液 だが高宮はさして動揺を見せる訳でもなく 綺麗な笑みはそのままに、小澤へと求める様に手を伸ばす 「……今日の、が、一番、良かった。これ、で俺は、アンタに、償える」 戦慄く唇が、ふざけた言の葉を告げる 償いなど、たとえ同等の死を以ってしても出来るはずなど無い 失ったモノは、二度と戻る事はないのだから 前へ |次へ |
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