《MUMEI》
すべてのことのはじまり
「ふぁぁぁ〜…」
大きな欠伸をひとつ。

両手を頭の上でめいっぱい伸ばして
身体をほぐす。

ここは心蘭高校第一図書室。
開け放たれた窓から
涼やかな風が吹き、
目に眩しい夕焼けの色と
落ち着いた秋の香りがした。

「寝ちまったよ…」

俺、真宮 奏多(まみや かなた)は、確か、来週締め切りの国語のレポート、

【異国の童話と日本の御伽噺】

を仕上げるため、この第一図書室に足を運んだのだ。

「センセもけったいな課題だすよなー。」

日本の御伽噺については、小さい頃、両親に読み聞かせてもらった記憶があるから

さほど苦労しなかったのだが、異国の童話と言われても
なかなかピンとこなかったのだ。

幸い、この学校には本が豊富にあり
図書室も第一、第二と二カ所もある。

童話がおいてある第一図書室に行き、片っ端から読みあさっていたら
いつの間にか寝ていた…とゆうお決まりのパターンだ。 

「童話っていろいろあんのな」図書室に独り言は
やけに大きく聞こえた。

寝癖がついていないか気になって
2、3度頭をなでつけた。

生まれてこのかた、一度もカラーリングしていない黒髪は艶やかで、

頭上に天使の輪ができるほどだった。

男にしては白すぎる肌に大きな真っ黒い目。

女装したら絶対に似合うと
耳にタコができるほどいろんな人から言われた。

奏多はそれが嫌でしょうがなかった。

実際、奏多の性格は、サバサバしていて決断力があり、誰とでも打ち解けられる、とゆう実に男らしいものだった。(まぁ、容姿のせいでとてもそんなふうには見えないのだけれど。)



窓から少し肌寒く感じる風が奏多に
ふきつけた。

「寒っ…今日はもう帰ろ。」

童話は嫌とゆう程読んだし、
どの童話をレポートに使うかは、
明日考えても遅くない。

本を指定されている本棚になおし、
帰り支度をはじめた奏多の目の端に

一冊の本が映った。


  【不思議の夢のアリス】

背表紙にはそう書かれていた。

「不思議の国のアリスじゃなくて?」

奏多は自分で思うより、童話にハマっていたらしい。

【不思議の国のアリス】はさっき読んだ。

しかし、【不思議の夢のアリス】は初耳だ。

奏多は迷いなくその本を手にとった。


本を開くとそこには

《これより、あなた様を夢の国へお連れいたします。

尚、夢の国へは、2人以上からのご招待となりますので、

お連れ様がいらっしゃらない場合に限り、ランダムに選ばれることになります。 

ご了承ください。

     夢の番人・チェシャ猫》


…と書いてあった。


「なんじゃこりゃ。」

意味がわからない。

奏多はその本を閉じようとした。


その瞬間。

ほんの一瞬のことだった。

身体が焼き切れるんじゃないかと
感じるほどの熱が奏多を襲い、

自分とゆう存在が消えてしまうんじゃないかと思うほどの光が奏多を包んだ。


…そして奏多は緩やかに意識をうしなった。

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