《MUMEI》

スカートを軽くはたく。

《ガジャンッ》

「ん?」

金属がぶつかる音がした。

そういえば、太ももあたりが
妙に重い。


いくら自分の身体といっても、
見知らぬ女の子の身体だ。

夢の中であっても、戸惑う。

少しためらいながらも
スカートをたくしあげた。

「んなっっ!?」


驚いた。
心底驚いた。

右太ももに拳銃二丁。
左太ももに拳銃一丁と弾丸。 

しっかりとガーターベルトで固定されているのだ。

見知らぬ女の子のスカートをたくしあげた背徳感なんて

どこかに飛んでいっていた。

「ほ、本物…?」

な訳ない。

これは夢だからな。

目が覚めれば、第一図書室にいるはずだ。

男の姿で。

それにしても、すごい夢だな。

これだけ驚けば夢から覚めそうなもんだが。

とりあえず、教会から出よう。

もう一度周りを見渡す。

さっきもおもった。
…なんで、扉も窓もないんだろうか?


「出れねぇじゃねぇかよっ!!」

奏多の叫びはドーム型の天井に吸い込まれた。


「そりゃそうだよ。」

その叫びに答える声がした。

「この教会は、外から入れても中からは出れない建物だからね。」

明るい声は、そう告げた。


奏多は恐る恐るふり返った。



そこには男の子が立っていた。

少し離れた場所に立って、
愛想のいい笑顔をこちらに
向けている。

俺と同い年くらいか、
少し年下か。


「…お前…誰だ?」

奏多の問いかけに少年は
目をぱちぱちさせて答える。


「俺は、チェシャ猫。
夢の番人だよ。」

奏多は‘‘チェシャ猫‘‘と名乗った
男をまじまじと観察した。

彼が動く度、ふわふわと揺れる髪。
猫っ毛な髪は、
蒼みががったエメラルドグリーン
だった。

ぱっちりしたつり目は
金色で、らんらんと光っている。

笑うと口から見える八重歯。

これだけ見れば、
俗にゆう美少年だ。


………頭の上に生えている……

耳さえなければ。

「…変態…?」

奏多は思わず小声でつぶやいた。

あれは、どう見ても
‘‘猫耳‘‘だろう。

…男が頭に猫耳カチューシャ…

=変態でおかしくないだろう。

あああ、とうとうこの夢、
変態まで登場しちゃったよ。

不思議と似合っていて、
痛々しさはないのだが。

むしろ、元々はえているんじゃないか、って程
その耳はなじんでいた。

そんなことを考えて
頭を抱えていると

‘‘チェシャ猫‘‘が眉をつり上げて
走ってきた。
 
「な、なんだよっ。」

そいつは、鼻と鼻がくっつきそう
な程近づいて

「変態はないでしょっ!!
俺結構傷ついたよぉ…?
可愛い女の子にいきなり変態呼ばわりされてぇ…。」

…といった。

「ちっ、近けぇよっ!!」

あまりの近さに止めていた息を
吸って怒鳴る。

チェシャ猫から甘い甘いバニラの香りがした。

「てか、聞こえてたのかよ…。」

距離があったし、小声だったから
変態発言は、聞こえていない
と思ったのだが。

「俺、耳はいいからね♪」

チェシャ猫は得意気に
耳をピクピクさせて言った。


…耳をピクピク…?

「うっ、動くのか、それっ!?」

チェシャ猫の猫耳を指差し
驚愕の声をあげる奏多を
少し不思議そうに見てチェシャ猫は
言った。

「…耳、だからね。
そりゃ動くよ。」


「…まさか…本物…とか…言わないよな…?」


「???…耳に偽物なんかあるわけないじゃあん。君、面白いこと言うね♪」

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