《MUMEI》
強面の男
ユウゴは次に目についた男へと殴り掛かった。
「ぎゃっ!」
中年のスーツ男は避けることもできず、ヨロヨロと倒れる。
「どうも、おじさん」
「お前、さっきの……」
「テレビで見たんだろ?あの兄ちゃんから聞いたよ」
「ワ、ワタル!」
倒れたまま動かない若い男を見て、彼は叫んだ。
「あれ、知り合い?」
ユウゴが聞くと、彼は憎しみのこもった目で睨んできた。
「よ、よくも、息子を」
「なんだ、親子か。親子揃ってこんなくだらねえ試験受けやがって……」
「黙れぇ!」
男は叫びながら、勢いよく立ち上がるとユウゴに向けて体当たりをした。
思わぬ反撃に、ユウゴは体勢を崩し、男の体を左肩に受けてしまった。

すさまじい痛みが体を走る。
ユウゴは舌打ちをして、左腕を押さえた。
すでに開いた傷口から血が流れ出している。
「……の野郎!」
ユウゴは静かに低い声で唸ると、勢い余って倒れた男の背を踏み付け、蹴り上げた。
続けて仰向けに転がった男の腹部を激しく蹴った。
男はすでに気を失ってしまったのか、グッタリしている。

 ユウゴはとどめをさそうと銃を構えた。
その時、背後から聞き覚えのある悲鳴が聞こえた。
振り向くと、サトシがあの強面の男に投げ飛ばされているところだった。
やはり、サトシには相手が悪かったようだ。
 ユウゴは目の前の男が気絶していることをもう一度確認すると、サトシの方へ加勢しに走った。

「大丈夫か?」
地面に落とされたサトシを助け起こしながら、ユウゴは言った。
「……なんとか」
痛そうに顔をしかめているが、骨に異常はないようだ。
そして、起き上がろうとしたサトシの顔が強張った。

 ユウゴが振り向くと、笑みを浮かべた強面の男が、おそらくサトシが落としたのだろう拳銃を持ってこちらを狙っていた。
「伏せろ!」
叫びながらユウゴはサトシの上に覆いかぶさる。
その頭上を鋭い風が駆け抜けていった。
「カンがいいな、貴様」
男はドスの聞いた声で不気味に笑った。

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