《MUMEI》

会話がかみ合っていない。

チェシャ猫もそれが分かっているようで、

しっぽを左右にゆっくり揺らしながら
眉根をよせ、考えこんでいる。


………ん?…しっぽぉ!?


「し、し、しっ、しっぽまであんのかっ!」

叫びをあげた奏多をみて
チェシャ猫は冷静に答えた。

「猫、だからね。」

「ーーーっ!!」

驚愕のあまり声も上げられない
奏多にチェシャ猫は
納得したような声をあげた。

「君の世界の猫には、
耳やしっぽ、はえてないの?
だから、そんなに驚いてんのかぁ。」

変な解釈をした、
チェシャ猫に
奏多は脳内でまた叫んだ。

ーいやっ、耳やしっぽはあるよ!?
でも、人間のカタチはしてねーんだよっ!!
猫は普通しゃべらねーんだよっ!!ー


「ふぅっ。わかった。」

何がわかったのか自分でもわからないが、
奏多は二度目のパニックを通り越した冷静さにたどり着いていた。

頭の中で
これは、夢だと繰り返す。

「チェシャ猫…だっけ。
この状況を説明してくれ。」

「もちろんっ♪
その前に、君の名前、教えて?」

「真宮 奏多。」

「奏多ちゃんかぁ。
いい名前だね。」

この時、奏多が《奏多ちゃん》
と呼ばれても怒らなかったのは、

無論、考え事が頭を占めていたからだ。

…チェシャ猫…チェシャ猫…
どこかで見たか聞いたか…

「あっ、童話だっ!」

【夢の番人・チェシャ猫】

あの本に書いてあった名前だ。

そんな奏多の声を
聞いてか聞かずか

チェシャ猫は
うやうやしくお辞儀して
こういった。

「ようこそ、不思議の夢へ。」

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