《MUMEI》 アリスin奏多「ようこそ、不思議の夢へ。」 チェシャ猫は、そう言った。 「なんだ、やっぱり夢なのか。」 そう呟くと、チェシャ猫は お辞儀をやめ、奏多に向かって 首を傾げた。 ふわり…と。 チェシャ猫が動くたび 甘ったるいバニラの香りが 宙を舞い、鼻先を掠める。 「そう。夢の国だよ。」 チェシャ猫は、穏やかな声で 言葉を続けた。 「ただね、自分の意思で夢の国から覚めることは不可能なんだ。」 …不可能…? 「俺が見ている夢なのにか…?」 「うん。 この話しは、もう一人を起こしてからにしよう。」 「…もう一人?」 「あれ? 注意事項にも書いてあったでしょー? 2人以上でないとご招待出来ません、って。」 「あぁ…。」 そんなことも書いてあったな。 確か、もう一人はランダムに 選ばれるんだっけ? 「それで、そのもう一人とやらは どこにいるんだ?」 「そこで、すやすや寝てるよー♪」 チェシャ猫が指差したのは、 並んだ長椅子の一つだった。 背もたれに隠れていて 気付かなかった。 近づいてみれば確かに 静かな寝息が聞こえる。 そして、その ‘‘もう一人‘‘の姿を 目に映した時、 奏多はもう一度パニックを起こしたのだった。 …そこにいたのは、 …男、だった。 …男にしては白い肌。 …真っ黒で天使の輪ができた髪。 …見慣れた学ラン。 「……………俺?」 そこにいたのは、 見慣れた自分の姿だった。 ぽかーんと大口あけて 突っ立っている奏多を チェシャ猫は、心配そうにみて、 「起こしてあげないのー?」 そう聞いた。 その瞬間、 奏多は、チェシャ猫につかみかかっていた。 「おいっ!!どうゆうことだっ!」 「ちょっ、落ち着いて奏多ちゃん!! そんなに掴んだら、くっ、苦しいし!!」 そんなチェシャ猫の訴えは、 華麗に無視され、 奏多の苦情は続く。 「《奏多ちゃん》って呼ぶなっ! 俺は、男なんだよっ! そこにいるのが俺なんだっ!!」 奏多は長椅子の上で眠る 自分(いや、自分じゃないんだけど)を指差して そう怒鳴った。 ーー10分後ーー 暴れる奏多をどうにかこうにか なだめて、チェシャ猫は 事態を整理した。 前へ |次へ |
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