《MUMEI》

「お袋何作ってんの?」

冷蔵庫から缶ビールを出しながら俺は尋ねる。

「明日の二人の弁当のオカズ!今仕込んどけば朝楽だからねえ」


手元を見れば豚肉に粉を塗している。
これはお袋の得意な豚肉の唐揚げ。
高校時代一番好きだったオカズだった。


「なー、なんであいつの分まで作ってんの?」


俺はダイニングの椅子に座り、プルタブをプシュリと引いた。

「そりゃー作んなきゃ瑛ちゃんがお腹空いて可哀相でしょ」

「…学校に売店はある、それにコンビニも近くにある」


「売店なんてパンしかないじゃないの、コンビニ弁当だってご飯なんか薄っぺらで育ち盛りのあの子達じゃ何処に入ったかわからないでしょ」


下ごしらえの済んだ肉をお袋は冷蔵庫にしまう。そして缶ビールを出し、俺の隣に座った。





「…なかなかいー子なんよ、あの子」


プシュリ、グビリ、トン。


お袋はテーブルにあった食べかけの捻り揚げをガサカザとティッシュに出した。

俺は捻り揚げを一本摘んで口に入れる。


「いー子とかそんなん前に高校生が他人の家に住みつくっておかしいだろ、しかも弁当まで作るなんてどうかしてる」


お袋も捻り揚げを口に入れ、そしてビールを飲む。


「あんたの言いたい事分かってるわ、確かにおかしい、まだ未成年の子勝手に預かってるうちは異常だし、向こうの親もなんも言って来ないのも異常。
しかもうちの一哉があの男の子にイケナイ事してんのも分かってて放置してて、もう異常のオンパレード」


「……、何だよ…、関係まで分かってて放置かよ」


「なんかあの子が一哉の事幸せそうに見つめんの見てたら、無責任かもしんないけどこれもいーかなって思っちゃったのよ、お父ちゃんもちょっと様子見てやれって言うし…、あの子ここに来てからずっと一哉の手伝いしてるのよ、そんな一途な姿にお父ちゃんもほだされちゃったのよ」



「………、手伝い…」



お袋は立ち上がり冷蔵庫から俺の分の缶ビールも出した。



「意外と真面目に手伝ってんのよ?フフッ、一哉に怒られると大きい体小さくして可愛いんだから」



俺は捻り揚げを口に入れながら、なかなか嬉しそうなお袋の顔を眺めた。

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