《MUMEI》

■三村Side■


「やっぱ家帰るかな」

「気にすんなよ、その内分かってくれるって」

「…、うん…」


家に帰っても俺の家には男を取っ替え引っ変え連れ込むお袋が待っているだけで。

その事を一哉に話たら、ずっと此処に居ろって言ってくれたんだ。
流石に俺の家庭事情は秘密にしてもらっているけど、それでも訳の分かんない俺を一哉の親は受け入れてくれた。


おばさんなんて弁当までこさえてくれて、俺は初めて親が作る弁当というものを食べた。



おじさんは土砂降りの雨の日バンで学校に来て、当たり前の様に二台の原チャと俺達をこの家まで送ってくれた。


俺には親父がいないから。なんか暖かいの感じてスゲー嬉しかった。

だけど、一哉の二つ年上の兄貴、洸さんには俺は嫌われている。


―――嫌う理由はよく分かっている…。


「なー、瑛ちゃん暗いよ?」
「…うん」
「可愛い顔台なしだよ?」
「…可愛い?」
「可愛いよ」
「マジで?」
「マジ」
「俺マジで一哉に可愛いって見えてんの?」
「可愛いからチュウしたりエッチしたくなんじゃんか」
「そっか」
「そうだよ」
「俺ちゃんと可愛いのか」
「そうだよ、可愛いんだよ」
「じゃあチュウ」
「はい」


じっと見つめたら一哉はちょっと顔を傾けて唇を重ねてきた。

煙草とビールの味、ちょっと甘い唾液の味もする。


「なー、抱いて?」

惚れた男からの愛撫が欲しい。


俺を求めてくれる激しい情熱が欲しい。


一哉はちょっと笑って、そんで立ち上がって、部屋の電気を消した。

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