《MUMEI》

■洸Side■


「な、あいつの事受け入れろなんて言わーけど、煙たがんのだけやめてやって欲しいんだ、マジで…」


「……、」

「兄貴がそーゆうの嫌なの分かってるし俺もイケナイ事してんの分かってる。
だけど…家に帰したくねーんだよ…」



煙草を吹かす仕種に最近違和感のなくなった一哉。



色恋沙汰に疎かった一哉が。

どっか頼りなかった一哉があの男と付き合いだしてから人が変わったと言うか。

俺にこんな風に言ってくるなんて今までじゃ考えもつかなかった。

いつも俺に頼ってばかりで、何も出来ない子供だったのに…。

「…そんな理由あったなんて、それ親父とお袋知ってんの?」


「いや、言ってない」

一哉はまた煙草に火をつけた。


胡座をかいて、吹かして、その目つきはすっかり男の目。


あんな奴いい影響ないって思ってたけど、なんか…。

いや、なんか嫉妬してきた。こいつを簡単に大人にしたあいつがやっぱり嫌いで堪らない。


「なんで俺には言うんだ」


俺も煙草に火をつける。一口深く吸い、深く吐きだす。


じっと弟と見つめあう。



弟は今まで見た事がない位真剣に俺を見据えてくる。


だから俺も真剣に返す。







「兄貴だから。
俺の事たくさん考えて、たくさん心配してくれる兄貴だから」



そんな風に言われたら、そんな目で言われたら…






「…なあ、一哉」



「ん」


俺はなんだか笑えてきて、きっと笑いながら言った。



「あいつに言っとけ、ちょっと声抑えろって、…やかましくてたまんねーよ」




弟は一瞬キョトンとして、そして表情をクシャッと崩して頭をかいた。



「ごめん、それは無理だわ、我慢出来なくさせてんの俺だから」





幸せそうな弟に久しぶりに蹴りを入れた。



明日会社休みだから。ちょっとだけあいつと話してみようかなと思った。



俺の弟を変えた男にほんの少しだけ興味がでてきた。




End

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