《MUMEI》
9.ゼウス
一体どこでどう道を間違えたものやら・・・・?
それより30分程前、ゼウスは下界の戦闘を眺めながら、自問自答していた。
今や国津神どもが、我が天津神の軍門に下るのは時間の問題・・・・、戦争の原因となった「精神投射計画」の実現を待つばかりと言う、この重要な局面で、思わぬ番狂わせが起きてしまった。
父王クロノスを謀殺して、やっと念願の王座を手にしたのもつかの間、太陽の異変により故郷の惑星を離れ、流浪の民を率いて銀河を渡る旅へと
出達せざるをえなくなり、早三百年。
ようやくこの辺境の惑星に落ち着いてみれば、さらなる問題が待ち構えていた。
化学者達の研究によれば、遅くともあと三世代で、天津神族は絶滅する事が判明したのだ。
この地球上でも多くの生命が栄えては、やがて滅びていったように、宇宙に覇を唱えた天津神族と言えども、運命を操れる全能の存在では無い。
人から見れば「神」としか見えない彼らにとってさえ、宇宙は壮大であり
不可解な謎を秘めていた。
宇宙を母と見るならば、「天津神」「国津神」「人」も、等しく成長途中の子供のようなものであった。
しかし天津神族は今、「進化の行詰まり」にあり、種としての「限界」を迎えつつある。
滅亡を逃れるためには、若い生命力を持つ「種」・・・・、つまり「人」との「混合」が不可欠なのだ。
「精神投射計画」・・・・それは人類の肉体への精神エネルギーの移植だ。
天津神族全ての民の精神を移植したとしても、遥かに多数の人類が滅びる事はありえない。
言わば、広大な畑地の中の一部を借りる程度の問題に過ぎない。
「人」と言う新たな土壌を得て再生する「天津神」と言う種。
それはゼウスの悲願であった。
それを忌ま忌ましい「国津神」どもめが!
それは宇宙の意志に反する行為だと?はっ!!
貴様らのように一つの惑星に縛りつけられたものどもに、宇宙の何がわかると言うのじゃ!
この冷酷なる宇宙の素顔を。
わしは「鬼」と呼ばれ「邪」と呼ばれようが構わぬ。天津神族の命脈が保たれるならば・・・・。
その決意を秘めての開戦。全ては計画どうりに進んで来た。
この番狂わせが起こるまでは!
ゼウスは、ナイアーラトテップとスサノオの戦闘を、憎々しげに睨み下ろす。
このままコケにされて黙っているこのゼウスでは無いぞ!見ておれっ!
次の瞬間ゼウスは光球に変化すると、凄まじい速度で上昇し、地球の大気圏外へと飛び出した。

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