《MUMEI》
逃げろ!
「一体何の事だ?」


洋平が指差した所を凝視してみたが、何もない。

しかし、確かに洋平はその場所を指し、井上もそこに居るであろう“何か”に怯えている。

つまり、二人には見えているモノが、司達三人には見えていないのだ。


「何でお前ら見えねぇんだよ!?」


洋平の顔から、徐々に血の気が引いていく。
声にもソレに対する恐怖が表れるている。


「知らねぇよ!こっちが聞きてぇし!!」


洋平の気持ちも分かるが、見えないのだから仕方ない。
喧嘩腰で言ってくる洋平に少しばかり苛立ってしまった。


しかし、こんな時に喧嘩などしている余裕はない。


「来るな…来るな…」


今はこの目の前の問題が先決。
ソレは徐々に二人との距離を縮めているのだ。



「おいおい、嘘だろ…?」
「ひ…っ!来るなぁ!!」
「ちょ…どうしたんだよ!?おい!!」


まるで蚊帳の外の三人は、どうしたらいいか分からず、恐怖する二人をただ見ている事しか出来ない。


「に‥逃げろ…」

「逃げるったって何処に‥」

「いいから!逃げ…」

「うわぁぁぁぁ!!」


合図より先に、井上は走り出し、洋平から離れた。


その瞬間だった。


「あれ…?居ない?」


さっき迄洋平に見えていたモノが、姿を消したのだ。

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