《MUMEI》

「にゃんこ!」
猫だ。かえでが上体を低くしてにじり寄る。
馴れたものでさっと腕に抱き抱えた。


「触りたい!」
七生が血相を変えて寄ってくる。昔から動物好きだ。


「俺も!」
勿論、俺も動物好きだ。


「肉球気持ちいい」
うっとりと猫を見つめながら七生は小さな前足を触る。

「ズルイ俺も!」
ふにふにと音が鳴りそう。

「あっ、逃げた」
器用に体をくねらせてかえでの腕の隙間から摺り抜けた。


「七生は乱暴に触りすぎるんだよ!
自分ばっかりじゃなくてもっと相手を思って優しく触ってあげないと……」
触る前に逃げてしまったとか考えてる俺も似たようなものだろう。


「……ううう」
唸るなよ。


「犬か?言葉を話せ」


「あははは、面白いなあ。私の後ろに隠れていじいじしていた二郎が七生を怒ってる!」


「うそぉ、そうだっけ。俺、記憶喪失?」
全然小学校の記憶が無い。かえでのことは覚えているのに、どうでもいいことばかり浮かぶ。

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