《MUMEI》

今は亡き父王、クロノス政権の時代、天津神族の
恒星系文明も、三度にわたる外宇宙からの侵略に脅かされた経験がある。
一度目は、宇宙探検に出かけた船が、他の惑星から標本用として持ち帰った生物の卵が、帰路、
船内で孵化(ふか)し、幼虫が乗組員にとりついた。
始末が悪い事に、この
昆虫型エイリアンはとりついた者と同化する事により、記憶を手に入れる事が出来たので、こちらが被害に気がついた頃には、首都惑星がかなりの規模で汚染されてしまっていた。
当時、首都防衛の親衛隊隊長として活躍していた若きゼウスは、断固たる処置でこれに応じた。
最初にとりつかれた時点から、完全に同化させられ、成虫として身も心も変化するまでには二三カ月の時間がある。
言わば完全に侵食されるまでの期間は、天津神族としての自我が残っている訳だが、汚染された初期の段階で、すでに彼らは有害なエイリアンであるとし、女子供であろうとも、情け容赦無く、粛清し、驚くほどの短期間で、事態を終息へと導いたのだ。
当然国民の間で、この強引な手法を心よく思わない連中もいたが、(批判派により、泣き叫ぶ子供から引き離した母親に、銃口を向ける親衛隊の写真が流出したのも、この時期である)大多数の国民は、次期国王候補ゼウスの活躍を英雄として讃え、批判に対して同情的であった。
おまけにそれから間もなく、二度目の侵略者である、勇猛な巨人族が隣の恒星系から進攻して来たために、世間の風潮は
一気に戦時的右傾化が進み、批判派は非国民の烙印を押されるなど、風当たりが強くなる。
ゼウスは、この機を逃さなかった。戦時のどさくさに紛れ、批判派を次々と粛清していったのだ。
都合が良い事に、批判派の中には、もう一人の次期国王候補である、ゼウスの実兄ポセイドン派の連中もいたので、ゼウスは国家反逆罪など様々な汚名を政敵達に着せ、とうとう実兄のポセイドンを絞首刑にまで追いこんでしまった。
刑の寸前に対面した兄は、やつれた顔で弟を見て、「それほどまでに権力の座が欲しいのか?」と、どこか悲し気な呟きを漏らした。
「イエス・・・・」
ゼウスは冷酷な薄笑いでそれに答え、目前で兄が首を吊られ死んでいく様を見ても、その薄笑いが顔から消える事は無かった。
父はそんな息子を評して
「我が子ながら恐ろしい奴よ」と言い、
しかし、
「これほどわしの後継ぎに相応しい者もおらんて」
と側近に述懐した。
「いつかわしは、息子に殺されるかも知れんな」
クロノスの自分自身に対する、不吉な予言は間もなく当たる事になる。

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