《MUMEI》

アラタの首輪は夜中外してもらえない。朝方リハビリがてら篝が外しにくる。


「帰りやがれ」
アラタの一言で陽炎は詫びを入れて立ち去った。


首を触る。除菌してても衛生が気掛かりだった。
アラタは腰のポケットからストラップを摘みあげる。下に携帯がぶら下がっていた。




高柳樹のものだ。

無くしたことを気付いていないのか連絡が無い。



これは落とし物である。
昨晩、路地裏で落としたものだった。



アラタは電話帳を見てみた。名前は数えるほど少ない。一桁分しか入っていない無駄も無く連絡以外は使用した痕跡は無かった。

ふと、指に手がかかる。


悪ふざけであり、気まぐれでのことだった。





『……はい、携帯拾ってくれたんですか?』
電話の機能で番号に気が付いたのだろう、声のトーンから樹だと判別出来る。




    「たすけて」




『……斎藤か。何処に居るんだ。』
アラタはふと、考える。


「檻の中」

一言答えて一方的に切る。


自分の携帯に樹の携帯でかけてみる。電子音が鳴った。

こうすることで非通知の番号が履歴に残る。
決められた仲間内の番号以外は記録しないようにしているからだ。


アラタは樹の携帯のデフォルメを見る。角の塗装が剥がれかかっていた。
布団の上で携帯が暴れる。マナーにしていたようだ。画面には自宅と番号が表示されていた。

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