《MUMEI》 蟻地獄 2男は美紀をどかした。 「どけどけどけ、邪魔邪魔邪魔」 男は余裕の表情で次々に雑誌を十字に縛り、後ろへ渡す。勝ち誇った顔で美紀を見る。彼女は露骨にムッとした。 (そりゃあ、男は力があるし、社員なんだから要領だってわかってるでしょ) 社員と日払い派遣バイトが同じ実力のわけがない。美紀は思わず勝ち誇った顔の社員を睨み返した。 「何その顔は?」 「別に」 「べーつーにー?」 午前10時。運悪く休憩のチャイムが鳴った。 「別にって何?」 美紀は慌てた。まだ家賃を払っていないのだ。解雇は困る。 「すいません、違うんです」 「間に合わないで威張るヤツいる?」 「すいません」 美紀は深々と頭を下げて謝った。しかし男はしつこい。 「ここのポジションがダメなら何やんの? 積みなんか出来ないっしょ」 「・・・教えていただければ」 「あっそ」 社員は、パレットで積みをしていたアルバイトの男に言った。 「結束機やって」 「え、あ、はい」 「おまえ積みやれよ」 「おまえって何ですか?」美紀は社員を睨んだ。 「理屈はいいから。結束された雑誌をどんどん積む。崩れないように組んで積むんだぞ。全部で5段。5段になったらこの紙を挟んで、リフトが運んでいったら、自分でパレットを敷いて次も同じ。これの繰り返し」 「・・・はい」 美紀は唇を噛んだ。難しそうな作業だ。やはり男子の仕事だと思ったが、結束機よりはいい。 結束機に移った男性が振り向くと、笑顔で美紀に言った。 「手伝うから大丈夫だよ。わからないことがあったら聞いて」 「あ、ありがとうございます」美紀はキュートな笑みを浮かべた。「よろしくお願いします」 地獄で人間を見た。 (強い男は優しいのよ。女にきつく当たる弱い男が増えて困るわ) チャイムが鳴った。ベルトコンベアが流れる。結束された雑誌が来る。美紀は一生懸命に雑誌をパレットに積む。想像以上に速い。間に合わない。美紀は焦った。 近くで先ほどの男の社員が見ている。 (悔しい・・・) 腕が痛い。手首が痛い。息が切れる。一つ一つは重く感じなくても、連続的な作業だと、ズシンと手首に来る。動きが鈍くなる。 「おーい、君、代わって」 社員は男の派遣バイトを呼ぶと、美紀と交代させた。 「積みやって。女には無理だ」 「はい」 美紀は仕方なくパレットから離れた。悔しくて仕方がない。 「君は、どこも務まらないね。ここ来る前何やってたの?」 「・・・事務です。デスクワーク」 「だろうね。掃除してて」 「・・・はい」 レフェリーストップで試合に負けた気持ちだ。美紀は意気消沈した。 前へ |次へ |
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