《MUMEI》 蟻地獄 3帰りの送迎車の中でも、美紀の表情は沈んでいた。 7年も勤めたコンピューター会社を会社都合であっさりリストラされ、彼女はすぐに就職活動をした。しかし面接をしても決まらない。「就職難」「氷河期」という言葉はニュースで何度も聞いていたが、会社に勤めている頃は他人ごとだった。 ハローワークには人が溢れ、殺伐とした空気が流れる。 美紀は正社員を諦め、アルバイトを探した。彼女は一人暮らしだから、生活をするためには仕方ない。 貯金がなくなったら終わりなので、日払いの派遣バイトをしながら月給をもらえるところを探したが、毎日働いているので、なかなか就職活動をするのは困難だ。 とにかく時給が安いうえに交通費が出ないので、毎日働かないと家賃が払えない。 派遣バイトは拘束時間も長い。例えば朝の7時に駅に集合といっても、そこから時給がもらえるわけではない。あくまで現地に到着し、始業時間から時給が出る。 ずっとパソコンを操作する仕事をしていた美紀にとって、立ちっ放しの倉庫内作業はきつかった。 派遣会社の事務所で日給を受け取る。 「次、露坂美紀さん」 「はい」 「これがきょうの分」 「ありがとうございます」 「で、明日から来なくていいから」 「え?」 美紀は耳を疑った。事務所の社員は、真顔で告げた。 「クレーム来ちゃったからさあ。君を寄越さないでって。困るんだよね、そういうの」 美紀は反論しようとしたが、何を言っても無駄だと思った。 「・・・そうですか」 ビルを出て、無表情のまま駅へ向かう。美紀は目の焦点が合っていない。精神的ショックは大きい。 「あ、家賃、どうしよう・・・」 先月の家賃をまだ払っていない。もう月の半分が来てしまった。嫌だけど彼女は不動産屋に電話をかけた。 「あ、もしもし、露坂ですけど」 『あ、露坂さん、家賃振り込んでくれましたか?』 「あの、もう少し待っていただきたいんですけど」 『はい?』声が裏返っている。 「すいません」 『すいませんじゃなくて、明日までに支払ってください』 美紀は慌てた。 「あ、明日は無理です」 『明日までに払わないと鍵を取り替えます。それでは』 一方的に切れらた。鍵を取り替えるというのは本当だろうか。そんなことされたら終わりだ。美紀は心臓が止まる思いがした。 「何で・・・」 踏んだり蹴ったりだ。泣きたくなってきた。 前へ |次へ |
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