《MUMEI》

 「広也、お前最近何か元気なくないか?」
翌日、大学
学食にて昼食を取っていた木橋の元へ
何故か怪訝な顔を浮かべた友人が昼食の取れを持って立っていた
向かいに座ってもいいか、との相手へ頷いて返せば
友人は腰を降ろしながら、変だをまた繰り返す
「……一体、何が変なんだよ」
食事する手を止める事はせず、聞いて返せば
相手は何かを指摘したいのか、箸先を木橋へと向け
「ズバリ、恋」
「はぁ?」
訳の分からない指摘をされ、顔を顰める木橋
だが相手はソレに構う事もなく話を勝手に進める
「何か悩みがあるなら話してみろって。話すだけはタダだろ」
「タダって、お前な……」
「お前が元気ねぇと何かこっちの気まで抜けそうだしな」
話してみろ、と急かされ、木橋は溜息を一つ
だが何をどう話していいのかが分からず、口籠ってしまう
「……今日、もう授業ねぇから、俺帰るわ」
「お、おい。広也?」
「じゃぁな」
引き留める様な相手へ軽く返しながら木橋はその場を後に
だが早々に帰宅する気にはなれず
道すがら見つけたベンチへと腰を降ろす
「学校はどしたの?広也君」
すっかり澪身に馴染んでしまった声が背後から聞こえ
向いて直ろうとした矢先
頬に冷えた缶ジュースが押し付けられ、驚いて振り返る
其処に居たのは、高野
「……お前こそ、なんでこんな処に居るんだよ。仕事は?」
「俺?俺は昼休み中。で?広也君はもしかしてサボり?」
「んな訳ねぇだろ。午前授業だったんだよ」
「へぇ。なら、今から暇ある?」
「は?」
「俺、今から昼メシ食いに行くんだけど、付き合ってくれる?」
奢るから、とまた同じ誘い文句
誰が言ってなどやるものか、と返答する事もせず身を翻せば
ソレを見計らったかの様に手首が掴まれる
「離せよ」
「ん――。何がいいかな。広也君は何が好き?」
人の話に全く耳を貸す事はせず
結局は高野の行きつけだという定食屋へ
だが既に昼食を済ませてしまっている木橋
定食が主なこの店で何を頼めばいいのかと首をかしげ
「……じゃ、これ」
選んだのは、食後用にとメニュ―にあったコーヒー
控え目なソレに、それだけでいいのかと意外そうな高野へ
木橋は頷き、自分はもう昼食は済ませてしまっているのだと返した
「……広也君ってさ、もしかして末っ子?」
注文を終えソレを待つ間、高野からの突然な質問
行き成り何を言い出すのか、と怪訝な顔をして向ければ
「ごめん。何となく、そんな感じがしただけ。違った?」
屈託のない笑みを向けて見せる
木橋は敢えて答える事はしなかった
そうだと答えればそうしてか、小馬鹿にされそうな気がしたからだ
「……ごめん。不躾だったね」
ごめんと改めての謝罪で互いに会話はなくなった
暫くして注文したものが届き
更に会話もなくなりそのまま食事は終了した
「……広也君。今晩、時間ある?」
別れ際、高野からの問い掛け
僅かばかり首を振り向かせてやれば、視界の隅に高野の笑い顔が見える
子供の様に裏表のないソレに、木橋は無意識に首を横へ
「なら、ウチにおいで。夕飯、一緒に食べよ」
約束、と小指を取られ子供にする様なそれ
恥ずかしさを覚えた木橋がすぐ様手を放し、また踵を返し
耳まで赤くし、顔を俯かせていた
「本当、素直じゃない所が可愛すぎるよ」
別れ際、微かに笑う声高野の声が聞こえ
木橋は更に気恥ずかしくなり、逃げる様にその場を後にしたのだった……

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