《MUMEI》
蟻地獄 4
全く金がないわけではないが、それを家賃に当てると、消費者金融会社から借りた今月分が返せなくなる。サラ金は怖いから家賃よりも優先にしていたのだが、どうやら家賃を優先にするしかない事態に追い込まれた。

さすがにアパートを追い出されたら生きていけない。

美紀は家賃を支払い、急いで次の職場を探した。

ところが派遣バイトすら見つからなかった。焦りが出てきた。テレビの評論家はしたり顔で「選ぶから見つからない」と語る。自分は就職活動とは無縁だから、どれだけ厳しい状況にあるかを知らないで喋っている。その無責任さに美紀は怒りを覚えた。

携帯電話が振動する。消費者金融からだ。恐ろしくて出れない。美紀は恐怖に震えた。

最初は広告を見て手を出してしまった。好きで借金をする人はいない。生活費が足りないから仕方なく借りてしまう。しかし美紀のように高利貸しの知識に乏しい人間は、30万円借りて30万円返すような感覚を持ってしまう。だが実際は違う。

電話は1日に何回も来る。払えるあてがない限り電話には出れない。広告は爽やかだったが、店は怪しかった。カウンターで応対した男はチンピラのように柄が悪かった。

そのイメージがあるから、美紀は怖くて電話に出れなかった。

今度はハガキが来た。

『今回期日までに払えなかったので、誠に不本意ですが、契約を解除します。40万円全額即日お支払いください。無理な場合はご連絡ください』

ハガキは紙にあらず。ハガキがナイフとなって美紀の心を引き裂いた。

一瞬死がよぎる。美紀はハガキを持ったまま両膝をつき、しばらく動けなかった。

翌朝。

美紀はハローワークに行き、職を探したが見つからなかった。家賃と電気、水道、ガス、電話、借金返済。それに税金などを合わせると、贅沢をしなくても、それなりの月給が必要になる。始めから生活できない月給の会社を選ぶ人はいない。

「なぜこんなに安いのだろう?」

求人広告に、絶対に生活できない月給の金額を記入する社長というのは、いったいどういう人なのだろうか。美紀は本気で疑った。

「そうか、一人暮らしとは限らない。親元から通っている若い人か、あるいは旦那と共働きの奥さんなら可能か」

美紀は一人暮らし。彼氏はいない。月20万円となると、「ワード・エクセルできる人」など、それなりの技術や経験を要求される。

簡単なパソコンの入力と電話応対が主な仕事だった彼女は、手に特別な技術を持っているわけではなかった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫