《MUMEI》
蟻地獄 5
段々腹が立ってきた。落ち込む代わりに激怒の感情が表に出る。

また電話だ。

「しつこいな!」

美紀は出ない。電話で怒鳴られたり、追い込みをかけられたら、怒鳴り返してしまいそうで怖かった。

食事代を切り詰めるといっても限度がある。全く食べないわけには行かない。

夜10時。

美紀は全裸になってバスルームに入った。軽くシャワーを浴びてから湯船に入る。

「ふう・・・」

古い木造アパートの1階。2階を希望したが、1階しか開いていなかった。東京は家賃が高いので、とても住めなかった。都内近郊は東京に比べたら安いが、2Kで50000円は安いとは思わなかった。

「こんな木造だもんね。ドアなんかこじ開けられそうに薄いし」

そう呟いたとき、ドンドンドンとドアを激しく叩く音。美紀は心臓が飛び出るほど驚いた。

(嘘でしょ?)

目を丸くして息を潜める。

「露坂さーん!」

ドンドンドン!

「露坂さーん。いるのはわかってんだよ。出てきな、怒らないから」

美紀は湯船の中でじっとしていた。怖くてたまらない。

(ヤダ・・・)

今度はバールのようなものでドアをこじ開けようとしている。美紀は体の震えが止まらない。話し声が聞こえるから複数だ。

「あ、開いた」

男の声に、美紀は下半身がキュンとなるほど縮み上がった。

「露坂さーん」

ドアを開けて部屋に入ったらしい。バスルームに来るのも時間の問題だ。美紀は一人暮らしだから、いちいち脱衣所で着替えたりしない。いつも部屋で全部脱いでからバスルームに入る。

全裸の美紀は硬直した。しかし金が目的なのだから、まさかそういう意味での危険はないだろうが、果たしてどうか。

「露坂さーん」

バスルームのドアが開けられた。チンピラみたいな格好をしているが若い男だ。全裸の美紀と目が合う。彼女は胸を両腕で隠して、男を見上げた。

「お、いたいた。何居留守使ってんの。許さないよ」

「すいません、お風呂入ってたものですから」

低姿勢の美紀を確認すると、男はいきなり凄んだ。

「俺が何で来たかはわかるよな?」

「わかります」

「じゃあ、早く出な」

美紀は唇を強く結んで湯船の中から男を見つめる。

「部屋で待ってる」

男はバスルームから出た。美紀は恐怖に震えながら脱衣所に立つ。とりあえずバスタオルを体に巻き、深呼吸。

(ああ、服を持ってくるんだった)

彼女は仕方なくバスタオル一枚の姿で部屋に戻った。

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