《MUMEI》 蟻地獄 7美紀が金田の言葉を待っていると、金田竜平は笑顔で睨んだ。 「1日待ってとか言って、夜逃げする気だろ?」 「まさか、絶対しません」 「絶対するね」 「夜逃げなんかしません。信じてください」 慌てふためく美紀。金田は悪魔的に迫った。 「保険が必要だな」 「保険?」 「絶対逃げられないように、全裸写真を一枚撮らせてもらうよ、今」 美紀は力が抜けた。下半身のほうからサーッと血の気が引いていく。目を真っ赤に腫らした美紀は、首を左右に振りながら哀願した。 「それだけはやめて、一生のお願いですから」 「おい。こいつの手足を押さえな」 金田が言うと、男二人が美紀に襲いかかる。 「ちょっと何をするんですか!」 押した倒された。悪夢なら覚めて欲しい。彼女は両手両足を押さえつけられた。 「放して!」 激しく暴れるがびくともしない。男の一人がバスタオルを掴んだ。美紀はその手に噛みついた。 「イテっ!」 男が手を放した隙に起き上がると、美紀は台所に走り、包丁を手にすると、自分の喉もとに突きつけた。 「待て待て待て、早まるな」金田が手を出す。 「本気よ」 バスタオル一枚の美紀が汗まみれになり、包丁を自分の喉に当てる。手が震えている。美しい美紀に見とれていた金田は、引きつった笑顔で言った。 「わかった、1日待つ。でも次はないからな。見張りをつけるから、逃げたらそのまま店に連れて行くからな」 金田と男二人は部屋を出ていった。美紀は包丁を持ちながら玄関へ行き、ドアを閉めた。 「はあ・・・」 玄関で崩れ落ちる。 しばらく立ち上がれなかった。いつ歯車が狂ったのだろうか。いつの間にか蟻地獄に落ちていた。 それより明日だ。親戚というのは嘘で、あては全くなかった。助けてくれる親類がいるなら、こんなに苦しんでいない。 「もう、いいかな・・・」 包丁を見つめる。美紀は考えた。人は、死んだらどこへ行くのだろうか。やはり地獄だろうか。 死後の世界はわからない。無の世界なのか。それも切ないが、もしも生まれ変われるとしたら、ゼロからやり直したい気もするが、自ら命を絶った罪を問われるとしたら困る。 彼女は立ち上がると、包丁を戻した。包丁で自分を刺す勇気はない。もちろん飛び降りなんか無理だし、首吊りはドラマとは違って顔が悲惨らしいと聞いた。 薬は眠っている間に楽に死ねるというが、結構ベッドが恥ずかしい状況になると聞いた。女性には抵抗がある。 自殺防止のために、わざとそういう噂を流しているかどうかは定かではないが、美紀は死ぬ以外の方法を考えた。 とりあえずパジャマに着替えて、ベッドに寝転んだ。 前へ |次へ |
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