《MUMEI》
衝撃の作家 2
「そして、作家の白茶熊賢吾さん」

「おばんでやんす」白茶熊は笑顔で頭を下げた。「あ、今は朝か。おはようさん」

美紀は少し興味を持った。

「作家?」

スーツを着ているが、クールビズなのかネクタイはしていない。髪は薄いのかスポーツ刈りなのか判別は難しい。眼鏡をかけていて、今ひとつ年齢不詳だ。体はガッシリしている。

司会者の園田広介が、女性議員の射出みきに聞いた。

「最近問題になっているのは、孤立死ですが、これをどう思われますか?」

「深刻な問題ですね。原因は病気や自殺、あるいは餓死といろいろ考えられますが・・・」

すると、話の途中で作家の白茶熊賢吾が割って入った。

「世界第3位の経済大国やろ? 餓死なんて一人でも出したら政治家は全員切腹しなきゃあかんよ」

射出みきと田口講二郎は目を丸くして白茶熊を見た。テレビ画面の前で美紀も目を見開いていた。

「失政が原因やないか。何悠長なこと言うてんねん」

「ちょっと待ってください」司会者の園田は慌てた。「白茶熊さんにも順番に聞きますから」

「順番もへったくれもあるか。きょうはシュートや」

「シュート?」田口が聞く。

「真剣を抜いて斬り合う真剣勝負ということや」

「いや、それはダメです」園田が必死に抑えた。「では、射出さん。失政が原因という話をどう思われますか?」

他党の議員もいないし、穏やかなトーク番組になると思っていた射出は、緊張の面持ちで答えた。

「もちろん政治家の責任は重大です。これは論を待ちません。しかし、働かない国民が増えていることも事実です」

「何言うてんねん、さっきから」白茶熊が口を挟んだ。「好きで失業する人間は一人もおらんよ。政治家のくせに、ほんまに現状わかってんの? どれだけ国民が苦しい状況で苦闘と葛藤の日々か」

ムッとした射出みきは、賢吾を睨んだ。

「あなたよりもずっとわかっているつもりですが」

「何やと?」

「ちょっと待ちましょう」園田も蒼白だ。「田口さんは孤立死をどう思われますか?」

田口は笑顔で語った。

「私はねえ、この豊かな時代に餓死というのは、おかしいと思うんですよ」

美紀が怒る前に賢吾の目が光った。

「待てや」

「白茶熊さんの意見もあとで聞きますから・・・」

しかし白茶熊賢吾は司会を無視して田口に絡んだ。

「豊かな時代っていつの時代や。今の日本のどこが豊かなのか言うてみいが」

「豊かでしょう。終戦直後に比べたら、はるかに豊かですよ」

「それを本気で言うてるとしたら、あんた評論家の前に人間やめたほうがいいのとちゃう?」

田口は笑みを消して憤慨した。

「何を失敬な。不愉快だ!」

「今テレビの前で聞いている国民のほうがよっぽど不愉快な思いしてんのわからんの?」

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