《MUMEI》
衝撃の作家 3
美紀は驚いて見ていた。この白茶熊賢吾という作家はどんな人物なのか。

「ええか。一人でも餓死なんて聞いたら、心が潰れる思いをして、初めて政治家と呼べるんや。一人でも自殺なんて聞いたら、胸が潰れる思いをして初めて識者やないか。二人とも何涼しい顔して語ってんの」

「作家はどうなんですか?」射出が切り込んだ。「作家は語るだけですか?」

「答えてええの?」賢吾が逆に質問する。「その問いに答えてええの? 国会議員のあんさんがかなり困ることになるよ」

「え?」

射出みきが焦った顔で司会者を見た。

「ほんまに答えてええの? 生放送やからカットきかんよ」

「一旦CM行きましょう」

「CMなんか行かせんよ。CM行ったら言うよ。わいはきょう、これを生放送で言われたらアウトゆう、爆弾を用意して来てんのやから」

爆弾が何なのか想像もつかないだけに、射出みきは強気に出れない。

「これ言うて次の選挙で落ちたら恨まれるからなあ」

賢吾が笑顔で首をかしげる。園田は司会者の権限で言った。

「わかりました。ではそれは言うのはちょっと、なしにしましょうか」

「あっそ」

スタジオには緊迫した空気が流れ、客席にも人がいるのだが静まり返っている。

「では射出さん」園田が必死に話をつないだ。「日本は今財政難ですが、射出さんは社会保障にも聖域なき改革のメスを入れるべきだと」

「そうですね。見直すべき制度があると思います」

「射出さん」

「白茶熊さん、ちょっと待ってください。今射出さんの話を・・・」

「待たんよ。その前に政治家は血まみれになるまで身を切ったんか?」

射出みきは露骨にムッとした。この作家を誰が呼んだのか。後でテレビ局を叱る必要があると思った。

「国会議員も公務員も身を切りましたよ」

「足りんよ。逆立ちしても、もう何も出ない。これ以上削ったら仕事できへん。そこまで身を削ったか?」

美紀は身を乗り出してテレビ画面を直視していた。

「国家議員も知事や市長も、年収500万円でええやないか、信じられん特典がついてるんやから」

「500万円?」

「ところであんた、きのうの夜、何食うた?」

「あなたに答える必要はありません」射出みきは賢吾を睨んだ。

「6000円のステーキやろ」

「え?」射出は慌てた。

「6000円のステーキ。美味いやろうなあ、食いたいわ、一度でええから」

「何を言っているんですか!」

怒る射出みきを無視して、賢吾は喋りまくった。

「ワインも飲んで10000円。リッチやなあ。まさか毎食1万円やないやろな?」

「失礼ですよあなた。きのうは、たまたまです。日頃は質素そのものの生活を心がけていますよ」

認めてしまった。スタジオの客席がややざわめいた。

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