《MUMEI》
衝撃の作家 4
火の粉が射出みきに飛んでいるので、田口は黙っていた。口を挟んだために攻撃されたら困る。

賢吾は構わず喋りまくった。

「まず政治家から身を切るべきやろ。失政が原因で今の閉塞感を生み出したという自覚がないから、国民を責めるんよ」

「責めてなんかいません。不公平を是正すると言ってるだけです」

「じゃあ公平って何?」賢吾の目が危ない。「障害者も健康で裕福な人も同じスタートラインに立たせて競争させることか?」

「比喩が極端です。私は一言もそんなことは言っていないし、誤解を招くようなことを言うのは慎んでください」

「競争、競争ってな。じゃあ競争に敗れたもんは死ねゆうことか?」

射出は顔をしかめて司会者を見る。

「白茶熊さん、ちょっと本日のテーマから逸れている気がするんですけど」

「あんたの気のせいや。レフェリーは公平が命やないか。国会議員やからって何もビビることない」

「いや・・・」

国会議員は怖い。権力者だ。園田は冷汗をかいた。

「ええか。政治家なら全員が勝利者になる道を模索せなあかんやろ。国会議員ってことはな。国民全員が守るべき対象やろ」

「あなたに言われなくても、政治家ならみんなそう思ってますよ」

「じゃあ何でいちばん弱いところから削ろうとするんや!」賢吾が怒りを露わにした。「その発想が気に食わんよ」

「・・・・・・」

「競争、競争ゆうヤツはな、健康で裕福な国民しか眼中にないねん。あんたらの心ない言葉でな、障害者や被災者や、重病者など競争のスタートラインに立ちたくても立てない人が、どれだけ肩身の狭い思いしてると思ってんの」

「もちろん、そういう人は守らなければいけないんですよ。でもただ仕事がないという人はですね・・・」

「会社都合の理不尽なリストラなんか災難やないか。災害に遭ったのと同じや」

美紀は自分のことを言われているようで、胸の鼓動が高鳴った。

「リストラは別ですよ。私が言ってるのは、ちょっときついからといって、すぐに会社を自分から辞めてしまって・・・」

「過労死の問題はどうなん?」

「過労死は次回やりましょう」

しかし賢吾は司会者を睨んだ。

「次回なんか1000%の確率でワイを呼ばんやろ?」

「そんなことはありません」

「今しかないねん。射出はん。思考からパワハラという概念が抜け落ちてるな」

「パワハラ防止にも私は真剣に取り込んでいますよ。失礼なこと言わないでください!」

討論番組というより、ほとんど二人の言い合いになった。

「なら聞くが、パワハラが日常茶飯事のブラック企業があるやんか。このまま行ったら過労死するという状況じゃ、辞めるのが正しいやろ?」

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