《MUMEI》
衝撃の作家 5
得意の分野とばかり、田口が口を開いた。

「今の若い人は、ちょっと甘いんじゃないんですか?」

「甘い?」賢吾が睨んだ。「田口さんは人に厳しく自分に甘いタイプか?」

「何言ってるんですか!」田口は怒った。「さっきからあんた、失礼ですよ!」

「あんさんらのほうがよっぽど失礼や。過労死なんて一件でもあったらアカンのや。過労自殺なんて・・・。そういうニュース聞いて、何人の政治家が胸を痛めたか知りたい。根性論や精神論持ち出す評論家をな、アホゆうねん」

「誰がアホだ!」

賢吾は田口を無視して射出を見る。

「パワハラで仕方なく失業する人も災難やないか。でも一旦会社辞めたら再就職は困難や。ところで雇用創出は政治家の仕事とちゃうの?」

「もちろん真剣に取り組んでいますよ」射出が睨み返す。

「まず雇用創出でこの超氷河期を改善してから失業者を責めろゆう話や」

「責めてなんかいません」

「働きたくても働けない。そういう人にとって国会議員の不用意な言葉はナイフのように鋭く胸に突き刺さるんや。そんなこともわからんの? 自分らの影響力もっと考えたほうがええよ」

射出が言葉に詰まると、賢吾は攻めた。

「こんなに大変な人が、こんなにも大勢おるんか思ったら、助けたい思うのが普通やろ? 識者なら。政治家なら。それを何で断崖絶壁に立っている人を責めるの? もっと悪いことしてんのに威張ってる有名人いっぱいおるやん。そんなに人を責めたいなら、そういうアホな有名人に鉄槌食らわせ。支持率上がるで」

射出は小さい声で言った。

「言ってる意味がよくわかりませんね」

「そっちが貧しい庶民を責めるならなあ。こっちも政治家の身辺調査して、飲食代公表するよ。みなさーん、果たしてこんな贅沢している人に特典が必要なんでしょうかあ、てな」

美紀は歓喜の笑顔。これほど自分の言いたいことを代弁してくれるコメンテーターに出会ったことがなかった。

「政治家の特典なんか、国民が聞いたらびっくりたまげるよ。バラしてええんか?」

「・・・一旦CM行きましょう」

「CMなんか行かせん。一ヶ月の通信費。接待費。いくらもらってるか。えええ! そんな大金もらってて、年収190万円の人から絞り取ろうとしてんのおおお? てな。驚くで」

「CM行きます」

テレビはCMを映した。美紀は待った。しかし、CMが終わってスタジオが映し出されると、白茶熊賢吾の姿はなかった。

「あれ?」美紀は首をかしげる。

白茶熊賢吾が始めからいなかったかのように、トークは穏やかに進められていた。

「レッドカード・・・退場させられたか」

美紀はテレビを消した。

「白茶熊賢吾かあ」

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