《MUMEI》
初めてのお客様。
今日も退屈だなぁ。
客とか来ないし。
1人チェスでもするかな…。

コンコン

「…え?」

コンコン

う、嘘だろ…!?
まさか客!?
「あの…いませんか?」
「あっ、今出ます!!」
俺は慌てて玄関まで走った。
そして、詫びの言葉と共に扉を開ける。
「遅くなってすみません。」

「いえ、ご在宅で良かった。」
にこり、と笑った女性はとても綺麗な人だった。
多分、俺より年上だろう。
大人の色気というかなんというか。
…ってそんなことより。
「えっと…俺に何か用事ですか。」
あれ、敬語ってどうやって使うんだっけ!?
「ええ、探偵さんに依頼をしたいの。よろしいかしら?」
「あ…はい。中、どうぞ。」

俺の探偵としての初仕事、初依頼人の名前は、多田 優さん。
どこかの研究所でタイムスリップの研究をしているらしい。
夢のような素敵な“趣味”だ。
「依頼というのは、簡単な事です。」
多田さんの言葉を待つ。
「貴方にとある人物を預かって欲しいのです。」
「とある…人物?」
ええ、と多田さんは微笑む。
「『彼』はとんでもない問題児で我々だけではどうすることも出来なくて…。貴方の力を貸してほしいのです。」
「…解りました。どうせ退屈ですし、引き受けましょう。で、『彼』というのは何処に?」
俺は笑顔を多田さんに向けて言った。
「ありがとうございます。彼はもうじきこちらに着く頃でしょう。」
俺の笑顔よりも更に輝かしい笑みで応える多田さん。
『彼』とやらを待っている間、俺は多田さんと世間話をした。
なんの他愛もない、ただの暇潰しにしかならない中身のない話。
それでも、何故か充実した時間だった。
人とこんなに話をしたのは久し振りな気がする。

コンコン

『彼』かな?
俺は玄関の扉を開けた。

見た瞬間、息をのんでしまった。

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