《MUMEI》
エース
今日来たこの習志野村刑務所は、アールを始めとした、凶悪犯罪者の収容所だ。

警察の取り調べや裁判は終わり、アールは死刑が執行されるまで生かされているに過ぎない。

実は心理学会からの派遣は3回目だ。年功序列を意識するこの組織は、一回目に派遣されたのは長老と言っても良いような超ベテラン、次に派遣されたのも同じぐらいのベテラン。

次が私達の番だった。
山本がエースと言われていても、こういった待遇になる。

−−皮肉にもこの制度のお陰で山本は有名になったのだが……

それは犯罪者の心理を引き出すことの難しさに関係する。
犯罪者は喋りたがらない。それは至って普通のことである。

そして話したことが心の内側なのか外側なのか判断が難しい。

それはテストの点が悪かった時に親にする言い訳に似ている。

−−もっともらしいことを言う。しかしそれはどうなのか。

−−

「苦手な国語の勉強ばかりしていたから英語の点数が悪かったんだ」

大好きな女の子の顔がちらついて、勉強どころではなかった、というのが本音でも、それは本人にしか分からないこと。

いかにベテランといえど、その女の子に行き着くことは至難である。

しかし山本は言葉巧みに、するすると女の子というキーワードを引き出してしまうのだ。


ベテランが出来なかったことをやってのける山本は、評価と嫉妬の雨を受けていた。

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