《MUMEI》
夢のクリニック 1
美紀はパジャマを脱いだ。

「会いたい」

白茶熊賢吾と会って話がしてみたい。しかし会えるだろうか。どこに行けば会えるか。

「そうだ」

作家なら書店に行けば、著作があるかもしれない。もしかしたらファンレターの宛先として住所か連絡先が書いてあるかもしれない。

美紀は水色の下着を身につけ、服を選んだ。会社の面接をするときに着ていくスーツを出すと、鏡の前に立った。

「よし、探そう」

首都圏なら良いのだが。そういえば関西弁だった。

「大阪だと遠いなあ」

交通費がない。関西なら電話しかない。でも有名人だったら、そう簡単に会わせてくれないか。

しかし美紀は断崖絶壁に立たされているのだ。もしも助けてくれないのなら、きょうのトークは単なるパフォーマンスということになる。

美紀はスーツを着て身だしなみを整え、バッグを持って部屋を飛び出した。



駅前の書店に入る。

文庫本を探していると、「白茶熊賢吾」の本が2冊並んでいた。

「あった!」

さぞかし社会にメスを入れるような傑作だろうと思って、彼女は1ページ目から読んだ。



私がエレベーターに乗ると、5階の彼女が乗ってきた。

「こんにちは」

彼女は爽やかな笑顔で挨拶してくれた。

「こんにちは」

私も挨拶を返した。嬉しい。確か彼女は25歳だ。会話をしたかったが、ストーカーと誤解されたら終わりなので、私は慎重になった。

愛しの彼女の後ろ姿。スリムなボディ。見事な脚線美。私は妄想の中で彼女を裸にした。



「え?」美紀は小首をかしげたが、そのまま読み進めた。



一糸まとわぬ姿の彼女が目の前にいる。美しい。綺麗な髪。私好みの短めの髪がたまらない。私は彼女を裸のままベッドに押し倒し、手足を拘束した。

「やめて、何をするの!」

夢にまで見た愛しの人が今、目の前で全裸なのだ。素っ裸だ。真っ裸だ。生まれたままの姿で、しかも無抵抗なのだ。私は野獣と化した。一気に襲いかかる。

「きゃあ!」

美しき獲物に容赦するハイエナはいない。私は無抵抗の彼女を・・・



美紀は本を閉じた。

「同姓同名かなあ。これはあの白茶熊さんじゃないでしょう」

しかし白茶熊賢吾という名前はあまりにも珍しい。美紀は本を棚に戻して、もう1冊のほうを手に取り、開いた。

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