《MUMEI》
夢のクリニック 2
初夏。美紀は眩しいばかりの水着姿で、一人、砂浜に寝転がっていた。



「美紀?」美紀は驚いた。しかし美紀という名前は白茶熊と違ってよくある名前だから、驚くこともないかと思い、先を読んだ。



早朝。まだほかに人がいない。美紀はセクシーだ。美人でかわいい。魅力的な21歳の女の子。鮮やかなブルーのビキニがよく似合う。

彼女はうつ伏せになり、音楽を聴いていた。ヘッドフォンをしてボリュームを全開にしているから、バイクの爆音が聴こえなかった。これが不運の始まりだった。



「・・・・・・」

美紀はドキドキした。バイクの爆音って。何だかまた雲行きが怪しくなってきた。



バイクが約10台、美紀に近づいて走っていた。美紀は瞳を閉じて音楽を聴いていた。

これがただの走り屋なら問題ないが、荒くれ男ばかり。喧嘩と女が三度のメシよりも好きという暴走族だった。

「え?」

美紀が気づいたときはすでに手遅れだった。バイクは彼女の周りに止まり、男たちが次々と下りてきて美紀のほうに歩み寄る。皆危ない笑顔だ。美紀は恐怖におののいた。



美紀は同じ名前だけに、唇を噛んで緊張した。酷いことをするのだけは許して欲しいと思って先を読み進めた。



男たちに囲まれた。美紀は怖々聞いた。

「あの、何ですか?」

「彼女一人?」

「違います。家族と一緒です」

「嘘言うならこの場でスッポンポンにするよ」

「わかった待って!」

美紀は慌てた。

「お願いです、酷いことはしないで、言うことは聞きますから」

「かわゆい!」

強引に仰向けにされた。

「待って! 待って!」

狼の群れに捕まった小鹿に等しい。万事休すだ。しかし絶望的な状況でも、美紀は諦めなかった。

「多少のことは構いませんから、酷いことはしないで、お願いですから」

「うるへえ!」

狼が一斉に襲いかかる。

「やめて!」



美紀は本を閉じた。隣に店員がいて、本を揃えながらチラチラと美紀を見る。美紀は本を棚に戻すと、その場を去った。

「別人でしょ」

美紀は書店から出て行こうとしたが、レジの近くに平積みにされている新刊に目が行った。

『あんさんの慢性金欠病を治しまひょ』

美紀は目を見開いた。このタイトル。しかも関西弁。

「え?」

美紀は本を手に取った。著者は白茶熊賢吾だ。

「あった!」

美紀は中身を見ずにレジに走った。

「カバーはおかけしますか」

「いいです」

「恐れ入ります。1000円です」

1000円は大金だが、この本は絶対に欲しいと思った。美紀は歓喜の笑顔だ。幸運が向いて来たか。

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