《MUMEI》
夢のクリニック 3
美紀は書店を出ると、すぐに本を開いた。

「白茶熊賢吾。作家。夢のクリニック(夢を叶える診察室)院長。お金の相談は・・・」

電話番号が書いてあった。

美紀は迷った。胸がドキドキする。03だから東京だろうか。大阪でなくて良かった。

「・・・・・・」

しかし時間がないのだ。今夜にも金田竜平は来る。そのときに40万円がないと風俗店に連れて行かれる。こんな悲劇はドラマや映画だけの話と思っていたが、現実にあるのだ。

美紀は恐怖と同時に怒りも覚えた。この現実を政治家や識者は知っているのか、それとも自己責任と見て見ぬふりなのか。

躊躇はしていられない。ダメでもともとなのだ。でも、望みを懸けたかった。美紀は携帯電話を取り出し、電話をかけた。

『はい、夢のクリニックです』若い女性の声。

「あの・・・」考えがまとまっていなかった。「何から話したらいいか」

『どういったご用件でしょうか?』

明るく爽やかな声に、美紀は少し安心して、話した。

「実は、今朝テレビで白茶熊賢吾先生を見まして、ぜひお会いしたいと思いまして」

『そうですか。失礼ですけどお名前は?』

「露坂美紀と言います」

『お金の相談ではないんですね?』

「いえ、お金の相談です」

『あ、では大丈夫だと思います。少しお待ちください』

何だ、最初からそう言えば良かったのか。美紀は緊張しながら待った。

『お待たせしました。きょうの午後は空いているんですけど、きょうは無理ですか?』

「ぜひきょうお願いします」

『では夢のクリニックの住所を申し上げます』

「はい」美紀は急いでメモとペンを出した。「どうぞ」

『東京都、江東区、亀戸・・・』

やはり東京だ。亀戸は前に行ったことがある。美紀は胸が高鳴った。

「ありがとうございます。助かります」

電話を切ると、美紀は空を見上げた。白茶熊賢吾に会える。行動してみるものだ。

彼女は電車に乗ると、早速本を読んだ。

「あなたの慢性金欠病を治します。バブルが弾けて以来、この病は日本で猛威をふるい、多くの人がかかってしまった恐ろしい病気ですが、必ず治ります。諦めてはダメです。自殺は絶対にしてはいけません。またする必要がないのです。なぜなら慢性金欠病は不治の病ではありません。必ず完治します」

本文は関西弁ではないのか。美紀は夢中になって読んだ。

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