《MUMEI》
夢のクリニック 4
「どんな病気でもそうですが、早期発見早期治療が病気を早く治す秘訣です。我慢に我慢を重ね、手遅れ寸前になって病院に来ると、手術が必要になりますが、早期発見ならば内科医の診断だけで治すことが可能です」

これは慢性金欠病の話だろうか。美紀は唇を結ぶと、ページをめくった。

「何百万円、何千万円と借金がある場合は、優秀な外科医(弁護士)を紹介します。しかし50万円以下で何とかなりそうな場合は、内科医の診断で十分です。ちなみに私、白茶熊賢吾は、内科医です」

50万円以下という言葉に、美紀は目を見張った。自分は内科医の治療で治るかもしれない。

電車は空いていた。

「毎月の収入よりも出ていくお金のほうが多い。これはもう慢性金欠病です。毎月家計が赤字で余裕がないと、ストレスが溜まり、健康を害する場合もあるから、金欠病は早く治したほうが良いでしょう」

確かにそうなのだが、どうやって治すのだろうか。

「ギリギリどころかマイナスで貯金がないと、急な出費のときに困り、人は思わず借金をしてしまいます。誰も助けてくれないから、ほかに方法がないわけです。しかし借金をして一時は助かっても、一つ借金が増えただけで、前よりも苦しい生活になったりします」

美紀は唇を強く結んだ。自分のことだ。

「そこで夢のクリニックです。借金をせずに、夢のクリニックに御来院ください。結局常に遅れている支払いがあるから、気が休まるときがなく、心にもダメージが蓄積されます。それが何年も続けば本当に病気になってしまいます。そうなる前に金欠病を完治させるべきです」

それはわかっているのだが、だからどうやって治すのかを知りたい。

「失業中の人はまた別ですが、現在働いていて、毎月決まった月収があるならば、まず遅れている支払いを全額払ってしまって気持ちもスッキリします。たいがいの家庭は、月収分、例えば返済しなくても良い30万円というお金を給料以外で手に入れたら、一気に生活を立て直せるのではないでしょうか」

美紀は驚いた。そんな魔法のような話が果たしてあるのだろうか。

「次に失業中の人。失業していなくても、派遣バイトなど日払いで何とか生活を繋いでいる人。これは察します。日払いといっても1日10000円なら、毎日入る現金収入でリッチな暮らしが出来るでしょう。しかし残念ながら多くの派遣会社は、1日に6000円前後。しかも交通費は出ない。そうなると、どんなに計画性のある人でも、お金を貯めるのは困難です」

詳しい。この人は現実を知っている。美紀はのめりこんだ。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫