《MUMEI》 夢のクリニック 6美紀はまだ読みたかったが、どっちみち全部は読みきれない。それより早く白茶熊賢吾に会わねばならない。 彼女は本をバッグにしまうと、夢のクリニックを目指して、都会の風を浴びながら、堂々と道の真ん中を歩いた。 「夢のクリニック・・・」 ビルに到着。エレベーターで3階へ。美紀はメモを見ながら廊下を歩いた。 「夢のクリニック・・・あ、あった!」 ガラスのドアに「夢のクリニック」と貼ってある。深呼吸。ついに来てしまった。我ながら行動が速いと、美紀は自分を誉めたい気分にかられた。 「失礼します」 ドアを開ける。歯科医のような感じで、待合室があり、スリッパがたくさんある。彼女はとりあえずスリッパに履き替えて、もう一度呼んでみた。 「失礼します。午前中に電話しました露坂美紀です」 すると、奥の部屋から声がした。 「どうぞ、中にお入りください」 このダミ声・・・いや渋い声は、間違いなくテレビで見た白茶熊賢吾の声だ。美紀は緊張した。 「あ、失礼します」 中は診察室になっているのだろうか。美紀はドアを開けて、部屋に入った。 デスクがあり、イスに白衣を着た白茶熊賢吾がすわっていた。 「あ、初めまして、露坂美紀と言います。よろしくお願いします」 「こちらこそ、院長の白茶熊です。何か、テレビを見てくれたとか」 「はい!」 「お見苦しいところを見せてしもうて」 美紀は笑顔で両手を振った。 「いえいえ、素晴らしかったです。あたしの言いたいことを全部言ってくれた感じで」 「そうでっか」 美紀は部屋を見渡した。 「あの、電話の女性は?」 「前はここでナースをやっていたんや。今は来る人が多くて家で電話番や」 「あ、そうなんですか」 「ワイのワイフや」 「あ、奥さんでしたか!」 白茶熊賢吾は年齢不詳だが、結婚していてもおかしくない年齢に見える。見たところ40代後半だろうか。 「で、きょうはどうされましたか?」 「白茶熊先生の本を読みました」 「何と?」賢吾は少し焦った顔をした。 「慢性金欠病の本です。まだ途中なんですけど、感動の連続です」 「何やそっち方面か」 「そっち方面?」美紀は真顔で聞く。 「いろいろ出してるからな」 「凄いですね」 「凄くない」 美紀は思いきって相談した。 「で、今実はあたし、大ピンチなんです」 「スーパーヒロインに大ピンチはつきもんよ」 「はい?」 「何でもあらへん。どうピンチなんや?」 前へ |次へ |
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