《MUMEI》
夢のクリニック 7
美紀は真剣な表情で話した。

「サラ金からお金を借りてたんですけど、1日遅れたために40万円全額払えと言われて、今夜までに払わないと、風俗店に連れて行かれるんです」

「何やと?」

賢吾の眼鏡の奥の目が怒りに変わった。

「そんな約束もちろん無効や。どこの店や?」

美紀は店名を言った。

「40万円か?」

「はい」

「待ったれ」

賢吾はどこかに電話をかけた。

「白茶熊や」

『どうも』

「店の名前言うで」

『はい』

「返済額は40万円。名前は露坂美紀さん。よろしく頼むわ。払わんと風俗店連れてくとアホなこと抜かしてるらしいわ」

電話を切ると、賢吾は優しい顔で美紀を見た。

「報告を待とう」

「え、今のは?」

「ウチの顧問弁護士や。強豪大兵いうてな、マルボー担当の刑事みたいな男や」

「きょうごう・・・たいへい。珍しい名前ですね」

「ワイとちごうて性格も珍しいで」

美紀は調子に乗って言ってみた。

「白茶熊院長だって性格珍しいじゃないですか」

「誰がハーリーレイスや」

「言ってません」

賢吾が歓喜の笑顔。

「何や、ハーリーレイス知ってんのか?」

「知りません」

「何や、知らんのか。世界でいちばん強い男、ミスタープロレス、美獣、ハンサム・ハーリー・レイスやないけ」

「はあ・・・」

賢吾はこける真似をした。

「はあ、やない。ワイの尊敬する人物や」

「プロレスラーですか?」

「そうや」

「ハンサムなんですか?」

「ギャングのボスのような風貌してる」

プロレスが好きなのか。美紀は思った。趣味の幅が広そうだ。

「何を独白しておる?」

「どくはく?」

「今心の中で何か呟いたやろ?」

「いえいえ」

賢吾は本題に戻った。

「借金のほかに困ってることはありますか?」

「今、あたし失業中で、凄く困っているんです」

かしこまる美紀に、賢吾は言った。

「就職活動中かあ。今大変やろう」

「はい。著書にもお書きになっていましたけど、会社をリストラされたあと、日払いバイトやってて、一ヶ月分の生活費がないんです。ですから月給もらえる会社の面接には行けなくて・・・」

「月給もらえる会社に入社するのが希望ですか?」

「はい」

「どんな会社に?」

「事務です。事務は7年やっていましたので」

「なるほりろ」

「はい?」

賢吾は続けた。

「では、一ヶ月分の生活費を出しましょう。いくらになりますか?」

「・・・え?」美紀は耳を疑った。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫