《MUMEI》
夢のクリニック 8
賢吾と美紀が話している頃、顧問弁護士の強豪大兵は、金田竜平がいる店に行った。

運良く、ほかに客はいなかった。

「いらっしゃい!」

柄の悪い男たちがドスの効いた声で迎える。強豪は180センチの長身。格闘技で鍛え抜かれた肉体は、スーツがはち切れそうだ。

ワインカラーのサングラスから見える目は、殺意がこもっていた。金田は少し怯んだ。

「露坂美紀を知ってるな」

「え?」

「オレは弁護士の強豪というもんだ。40万円払いに来た」

強豪大兵は、1万円札40枚をカウンターの上に置いた。

金田竜平は金を受け取って数えると、強豪を睨んだ。

「彼女は?」

「来ない」

「来ないとダメですよ」

「払わないと風俗店に連れて行くと脅迫したらしいな」

金田は顔を曇らせると、答えた。

「そんなこと言ってない」

「じゃあ刑事を呼ぶか?」

金田は溜息を吐くと、仕方ないという表情で言った。

「わかった、もういいよ」

しかし強豪は帰らない。カウンターに用紙を一枚置いた。

「40万円の受領書と一緒に、これにサインをくれ」

金田は用紙を見た。二度と露坂美紀に近づかないという誓約書だった。

「弁護士さん。こっちも命張って商売してるんだ。こんなもんにはサインできねえよ」

すると、強豪はパイプイスを掴み、壁にぶん投げた。

「舐めるなガキ!」

凄い音がした。その音を合図に、ドアを開けて黒いスーツを着た巨漢が3人部屋に入ってきた。皆黒いサングラスをかけている。プロレスラーのような筋骨隆々の強面に、金田やほかの男たちも怯えた。

「プロフェッサー」

強豪がそう言うと、中央の巨漢が何と日本刀を抜いた。

「え?」

皆は蒼白になった。

「おいこらあ、ガキこらあ」強豪が凄む。「テメーらが単なる20代の若造だってことはとっくに調べがついてるんだ。何ヤクザもんの真似事してんだこらあ!」

プロフェッサーと呼ばれた男は、日本刀を持って前に出る。金田たちは震えながら窓際まで下がった。

「腕一本もらうぞ。誰か犠牲になれ」強豪が睨む。

「ちょ・・・」

「傷害事件起こしてわざと大問題にして、マスコミにこの実態をアピールする。一人日本のために犠牲になれ」

「ま、待ってください」金田はやっと言った。「サインしますから」

「しろ」

金田はサインすると、誓約書と受領書を強豪に渡した。手が震えている。プロフェッサーは日本刀をしまった。

「ふう」強豪はさりげなく言った。「では、この辺の島を縄張りにしている本物のヤクザには報告しておく」

「え?」

「本物は偽物を嫌うぞ。襲撃される前に夜逃げでもするんだな。ヤクザもんは甘くないぞ。海の底に沈みたくなかったら、さっさと消えろ」

口を開けたまま硬直している金田竜平を残して、強豪たちは部屋を出た。

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