《MUMEI》
夢のクリニック 9
クリニックに電話がかかってきた。白茶熊賢吾が出た。強豪大兵からだった。

「はい、ご苦労さん」

電話を切ると、賢吾は美紀に伝えた。

「サラ金のほうはカタがついた。もう40万円は払わんでもええよ」

美紀は目を見開いて、しばらく言葉が出ない。

「・・・え?」

「もう大丈夫や。安心しなさい」

信じられない。夢を見ているのか。どんな魔法を使ったのだろうか。

「何てお礼を言っていいかわかりません」

放心状態に近い美紀に、賢吾は言った。

「それよりも大事なのかこれからやな。えーと、家賃はいくらですか?」

「50000円です」

「50000円」賢吾はメモ用紙に数字を書き込んでいった。「で、電気が5000円」

「そんなに行かないですよ」

「余裕もって計算したほうがええねん。で、ガスが5000円、水道が5000円、電話は・・・10000円くらい見とこう」

美紀は口を真一文字にして、賢吾を見ていた。

「飲食代が1日2000円で、62000円」

「そんなに行かないですよ」

「政治屋は1食1万やからな。それで年収190万円の人から削り取ろうとしてんのや。発想が許せん。自分らの贅沢三昧な暮らしはそのまま確保しておいて、何で一番弱いところから取ろうとすんの?」

美紀はいたたまれない表情でいた。自分も一番弱いところの部類に入るかもしれない。

「政治屋の思い通りにさせたらアカンよ。国民の命と生活を守るのが政治家や。国民の生活を破壊するのは政治屋。ちゃんとたて分けて見ないとアカンよ。ワイは本物の政治家だけを相手にする。ギリギリの生活で大変な思いをしている人に不安を与えるようなヤツを、何で政治家と呼べるんや!」

賢吾は怒りを露わにした。

「絶対的に庶民の味方。こういう本物の政治家を増やさな日本は沈没してしまうよ。メディア戦略が上手いタレントみたいのを救世主のように崇め奉る一部のアホなマスコミも同罪やな」

美紀は思った。賢吾の根底にあるものは、怒りだ。激しい憤怒を感じる。民衆を本気で愛していたら、その民衆に不安と恐怖を与える人間に対して、憤るのは当然かもしれない。

「日本人は怒りんぼは良くないと言うな。長寿の秘訣は怒らないことやと。でもな。今の世の中見て怒りを感じるのは人として当たり前やろ」

「はい」美紀も真剣な表情で頷いた。

「で、税金やNHKやもろもろで、30000円。全部合わせると」賢吾は電卓を弾いた。「167000円。あと何か忘れてないか?」

「ありません」美紀は俯いて答えた。

「まあ、若いからな、服も買いたいやろうから・・・」

「そんな、そんな。贅沢は我慢しますよ。それに若くもないし」

賢吾の目が光る。

「若くないやと?」

「はい。28歳ですから」

「28歳で若くないって、喧嘩売ってまんのか?」

美紀は慌てた。

「いえいえ、そういう意味ではありません」

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