《MUMEI》
夢のクリニック 10
賢吾は喋りまくる。

「23歳でババー。25過ぎたら渋谷歩いちゃいけないって、そんなアホな世間のノリに自分を合わせることないよ。20代いうたら人生の四季でいえば春やないか。青春時代や。28歳なんてこれから人生が始まる年代やないか」

美紀は目を丸くして話を聞いていた。

「30代、40代なんかまだまだ真夏や。ギラギラ燃え上がる真夏の太陽のように、情熱が溢れている状態が普通や。30歳でオジサンなんて嘘ぶいてる男に何ができるんねん」

「・・・白茶熊院長は四季でいえば何ですか?」

「だれがドンレオジョナサンや?」

「言ってません」

「何、ドンレオジョナサン知ってんのか?」

「知りません」

賢吾は話を戻した。

「まあええ。ワイの年齢なんかどうでもええやないか・・・何ワイが秋みたいな目で見つめてんねん?」

「まさか、まさか、夏くらいではないかと」

「くらいって何や?」賢吾が絡む。

「すいません」

賢吾は今度こそ本題に入った。

「で、167000円じゃギリギリやから、20万円あったら何とかなりますか?」

「20万ももらえたら、申し訳ないです」

「今まで散々苦労して頑張って来たんやないか。一生懸命頑張っているのに、どうにもならん人は、世の中に大勢おるねん。それこそ百回千回死ぬ思いで生きて来た人がたくさんおるんよ。政治家はそれをどこまでわかってるかなあ。わかって欲しいよ、ほんまに」

美紀は夢の中だ。とても現実とは思えなかった。

「では、就職活動、頑張ってください」

「はい」

賢吾は財布から20万円を出して美紀に渡そうとした。彼女はすぐには受け取れなかった。

「何て言っていいのか・・・」

「今度は露坂さんが困っている後輩に同じことをすればええんよ。そうやって助け合って行けばええやん。困ったときはお互い様や。金出す代わりに貸しをつくる? そんなアホはいらんよ」

美紀は感動の面持ちで金を受け取り、大事に財布の中にしまった。

「ありがとうございます。本当にありがとうございます」

「話してればわかるよ。誰でも彼でも助けるわけやない。生意気で礼儀知らない勘違い君や、やたら慣れ慣れしいのはダメやな。露坂さんみたいに一生懸命頑張って来たけど、どうにもならん人。そういう人のためなら何でもしてあげたくなるんや」

「・・・院長」

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