《MUMEI》 夢のクリニック 11夢のクリニック。夢を叶える診察室。美紀はこの意味がわかった。ここは別世界だ。冷酷な今の世の中で、こんなことはあり得ない。 「また何か困ったことがあったら来てください」 「はい、ありがとうございます!」 美紀が帰りかけたとき、賢吾が呼び止めた。 「そうや」 「はい」 「露坂美紀さん」 「はい?」 賢吾の目が光る。 「事務を7年やっとったと言ったな?」 「はい」 賢吾は考えた。今、就職難が冗談抜きにきついことは、いろんな人と接しているだけに、よく知っていた。 「もし露坂さんが良ければ、ここのアシスタントにならんか?」 「アシスタント?」 「ナースや」 「ナース?」 美紀は胸の鼓動が高鳴った。願ってもない話だが、果たして自分に務まるかどうか。その不安もあった。 「でも、あたしに出来ますかね?」 「手取り足取り懇切丁寧に教えるで。ほんまに手も足も取ったりはせんが」 「はあ・・・」 「まあ、即答せんでええ。考えといてください」 「前向きに考えさせていただきます」 これから就職活動をすると思うと、考えただけでストレスが溜まる思いだった。突然の話に、彼女は頭を急回転させた。 美紀はドアノブを握ったが、立ち止まった。 「どないしたん?」 美紀は振り向いた。泣きそうな顔をしている。 「院長」 「何や?」 「やっぱり、ここで使ってください!」 切羽詰った表情の美紀に、賢吾は優しく言った。 「ほんまか? 助かるわ。一人ナースが欲しい思ってたところや。実はな。この事業を拡大する計画があるねん」 「拡大?」 「いよいよ外に打って出るときが来たからな。手遅れにならんうちに」賢吾の目が鋭く光った。 「手遅れ?」 「そうや。公助が崩壊することはないと信じたいが、アホな勢力が勝ったらあり得るからな。そうなれば国民は路頭に迷う。そうなる前に手を尽くさんといけん。戦は時を逃したらアカンのや。ワイも忙しくなる。ここを留守にする日も増えるからな。頼むで」 「頼むってそんな」美紀は慌てた。 「大丈夫や。無理な仕事はさせん。あ、そうや。ワイの仲間にも露坂さんを紹介しよう」 「美紀でいいですよ」美紀はキュートなスマイルを向けた。 「さすがはスーパーヒロイン。言うことがちゃうな」 前へ |次へ |
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