《MUMEI》
えええ?
「なー裕斗」

「ん、なに?」


ベランダから部屋に入るなりいきなり話かけられた。


「俺今日は深夜から仕事だから」



「うん」




「俺の親に今から会ってもらう」




「……」





「……」






バタンッ!





「えええっ!?」






慌てて落とした籠を掴む。





「なっ、いきなりなんでっ!?」



秀幸は皿とジョッキを掴みキッチンへ行く。



そして蛇口から水を出し洗い始めた。


ジャバジャバジャバ…


「兄貴の結婚が決まったんだけどよ〜」


「うん?そうなんだ?」



見た事も会った事もなんもない秀幸より一つ年上のお兄さん。
確か大学病院で内科医をしていると秀幸に大分前に聞いた。




「お互いの親がな?お互いに自分の家に入るもんだって思ってたみてーで話がややこしくなったんだ」


「…意味わかんねーんだけど」


秀幸は蛇口を止め、煙草を掴んだ。



「兄貴が伊藤のままか、嫁さんになる女の家の菖蒲になるかってこった。兄貴はどうせ実家はサラリーマン家庭なんだから菖蒲に入る気だったらしい。
でも親からしたら一応長男なんだからむやみやたらに婿に出す訳にはいかねーってなってよ」


「ふーん…、なんかよくわかんねーけど難しいんだなあ」



「で、いくら話合っても折り合いがつかなかったみてーでよ、んで結局まだ結納前だし破談にしちまうかってまでなったんだけど」



「はあ…、なんだかだなあ」


「まー揉めてまで結婚してもって兄貴達もなったらしいんだけど、でもそうもいかなくなってよー、正式に破談にする寸前に妊娠が分かっちまって」

「……」


なんかなんか…

すげぃ話…。

秀幸は天井を見つめながら煙草をふぅと吐き



「まーそれじゃ仕方ねーってなってな、で、じゃあ弟の俺が将来責任もって伊藤を守ってくれるなら兄貴を婿に出すって事になったっつーか…」





「………」



「別に将来親と同居とかそんなんじゃねーよ?ただ墓守りとかそーゆうやつ次男の俺に引き継いでくれって話で」


「ちょっと待って!なんで?それで俺が秀幸の親に会わなきゃなんねー理由わかんねーんだけど!?」


「それが兄貴が余計な事言っちまってよー」

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