《MUMEI》

彼は、男の俺でも見惚れるくらいに整った顔をしていた。
失礼な話だが、多田さんよりも綺麗だと思った。
「…………………どうも。」
彼が言葉を発する時まで、動けずにいた俺。
「…あっ、えっと…君が、多田さんが言ってた…?」
「…まぁ、そうなると思います。」
「た、立ち話もなんですから、どうぞお入りください。」
まずい。
俺は今、非常に動揺している。
「探偵さん。彼が先程言っていた常磐津 信喜君です。では、よろしくお願いしますね。」
いつのまにか玄関まで来ていた多田さんはそれだけ言うとそそくさと家から出ていってしまった。
「えっ!?ちょ、多田さん!?」
俺の言葉も無視。
……しょうがない。
「とりあえず、中…どうぞ。」
「…お邪魔します。」
そういえば多田さん。
俺の名前一度も呼ばなかったな…。
あ、自己紹介してなかった?
でも俺が探偵だってこと知ってたぐらいだから俺の名前はも知ってるのかとてっきり…。
ま、今考えてもしょうがないか。
今は俺と向かい合って座っている、ときわずしきくんについて考えなきゃ。
「ときわずしきって、どういう漢字書く?」
「…一般常識の常に磐石の磐、津波の津で常磐津。信じる喜びで信喜。」
「常磐津…信喜…君。オッケイ、覚えた。」
素直にいい名前だと思った。
照れ臭くて口には出さなかったけど。
「あんたの名前は?」
「あ、そういえばそうだね。俺は万 硲。よろしくな、常磐津君!」
俺が右手を差し出すと、彼が握り返してくれた。
わーい、握手握手。
人生初握手。
って、あれ…?
「常磐津君。」
「なんでしょう。」
「なんで握手…知ってるの?」
握手は…なくなった挨拶表現の筈なのに。
「なんでって…」
返答に悩む常磐津君。
もしかして…
「君も歴史に興味が!?」
多分俺、目が輝いてる。
彼は意外な事を聞いたとでも言わんばかりに驚いた表情をしている。
「……………………………そっちなんだ。」
「え?」
何が?
「…いや、うん。なんでもない。」
「?そか。ところで常磐津君とタイムスリップの研究をしてるのかな?」
「…いいえ?」
え、じゃあなんで多田さんとお知り合いなんでしょうか。
「それよりさ、ツカヌコトをお聞きしますが今って西暦何年?」
西暦?
「2186年、だけど…」
「2186ぅ!?」
あ、常磐津君が声張り上げた。
じゃなくて。
そんなに驚くことでもないと思うけどなー…
「…まじか、なんでそんなことに…」
「え?」
「なぁ、あんた年幾つ?」
「19歳。常磐津君は?」
「……16。」
えっ!?
「年下だったんだ…」
てっきり同じくらいだと思ってた。
「…タメかと思った。」
常磐津君…。
もしかしなくても俺が童顔だって言ってるよね?


ピーピーピー

「あ、電話。…ごめん、ちょっと待ってて」

『やぁやぁ硲君〜、年下の美少年預かったんだって?』
「…相変わらず、情報が早いことで。」
『この僕様に不可能はないの』
「…はいはいそうでしたねー」

電話の相手は天才で変人の『僕様』、坂田 代永。

『でさぁ、硲君。その美少年の話なんだけどね〜

もしかしたらこの時代の子じゃないかもなんだよねぇ』

「……………………………は?」

『あはは硲君間抜け面ーっ』

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