《MUMEI》
作戦会議 8
火剣の口から出任せが始まる。

「賢吾のような男がなぜ、れおんのようなヴィーナスと結婚できたか」

「のようなって、院長は素晴らしい人じゃないですか」美紀が反論する。

「素晴らしい?」火剣は本気で驚いて見せた。「騙されてはいけません。賢吾は人々からセクハラ大魔神と呼ばれているんだぞ」

「人々じゃなくて火剣さんがつけたニックネームでしょ」

「バレたか」

隣のテーブルが気になって仕方がないが、賢吾たちは作戦会議を続行した。

「問題はどこまで攻めるかだ」

「とことん攻めよう」賢吾が真剣だ。「もう待ったなしやからな。弱者切捨て政策など、二度と口にできんようにしてやるわ」

「そうだな」

「実は賢吾の奥さんはアシスタントだったんだ」火剣の声が大きい。わざとか。

「そうらしいですね」

「であるとき、賢吾がマッサージしてやると言った。指圧だと思ってれおんは診察台に寝たんだ」

「寝ますか普通?」美紀の顔が曇る。

「ヒロインの条件は冒険心旺盛で警戒心皆無でないと」

「アハハ」美紀は明るく笑った。「それじゃ男の思うツボじゃないですかあ」

「そうだな。で、れおんは賢吾を信じて身を任せた。ところが指圧じゃなくて性感マッサージだったんだ」

「え?」

美紀の顔が赤い。火剣は得意満面で続けた。

「賢吾の巧みな攻めに経験の乏しいれおんは無念にも落とされてしまった」

「落とされたって?」

「屈伏してしまったんだ」

「屈伏?」

美紀が小首をかしげると、火剣はすかさず言った。

「小首をかしげるのは小悪魔ポーズだぞ。挑発と取られても文句は言えねえ」

「火剣さんって本当に面白いですね」

「俺は面白いぜ。いきなりギャグ飛ばすしよう。あいつら慢心トリオとは人間のレベルが違うぜ」

「何だ慢心トリオって?」短ライが睨む。

しかし火剣は指を差した。

「俺様は赤の他人なんだろ。こっちのテーブルに口出しするな」

短ライは賢吾と激村に言った。

「火剣も記者会見に参加したいんじゃないのか」

「ダメだ」激村が真っ先に反対した。「今回ばかりは仲間には入れられない。あの調子でふざけられたら誤解を招く。この記者会見は真剣勝負なんだ」

「じゃあ裏方にするか」

「火剣に何ができると思う?」賢吾も否定的だ。「協調性皆無やし、団結を乱す危険性は十分にある。心配や」

「純情なれおんは、屈伏してしまったことで、不本意ではあるが、賢吾のお嫁になるしかないと人生を諦めたんだ・・・があああ!」

賢吾がメニューで火剣の脳天を叩いた。

「ええ加減にせえ。美紀。100%嘘やからな」

「あ、はい」美紀は笑った。

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