《MUMEI》
まあいくつも受けてやっとありつけるかどうかの世界だし、裕斗の場合日本人顔ではないという容姿のハンデもある。
オーディションを勧めたマネージャーだってそんなに深い意味はなく、何となく勧めたのだろう。
物事を断るのが下手な裕斗だから流れで受ける事になった、それだけの、事。
「平気だよ、だって今んとこ俳優なんてやる気ないんだろ?冷やかし程度でのっこんできな?」
「うーんそうなんだけどさ、でも緊張するよ」
俺は裕斗からペットボトルをすっと取りあげ、ローテーブルの上に置く。
そして横向きのまま軽く抱きしめると、俺はそっとベッドに
押し倒した。
俺は上から見下ろしながら裕斗の顔の両脇に肘をつき、軟らかい髪を指先でなぞる。
――じっと黙ったまま見つめ返してくる表情に、俺は眼を瞑り顔を傾け、唇に向かう。
「納豆臭いから駄目」
やっと呼吸を感じ、触れられると思った途端、柔らかな暖かい手でムニュッと頬を挟まれた。
眼があった途端、何故かお互いに笑ってしまい、
そして俺は、
裕斗をきつくきつく…
抱きしめた。
――愛しい…
可愛い…―――。
「俺のモノになれよ……」
切なさを込めて俺は吐く。
――そして裕斗は、
ひたすら黙ったまま、
緩く俺の背中に腕を回すだけだった…。
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