《MUMEI》
怒りのメッセージ 1
会社の倒産は経営者にとっても従業員にとっても悲劇である。

柄田昇、50歳。彼は社員が100人いる会社で部長をやっていたが、経営が悪化し、資金繰りが上手く行かず、ついに会社は倒産してしまった。

大変なときこそ家族で助け合えれば素晴らしいが、そういう家庭ばかりとは限らない。柄田は妻子のために懸命に働いてきたつもりだったが、妻は子どもを連れて実家に帰ってしまった。ショックは大きかった。

部長といっても特に特別な技術を持っているわけではなかった。部長の役職はその会社でしか通用しない肩書きである。再就職の武器にはならなかった。

白髪交じりの短い髪。ガッシリとした丈夫そうな体格。しかし疲れきった顔をしていた。50歳。毎日ハローワークに通う日々。パソコンの前にすわり、一生懸命仕事を探すが、35歳位までというのが多い。50歳以上となると経験者しか求めていない。

このままでは貯金がなくなる。仕方なくアルバイトを始めた。

大型トラックの荷台から重い荷物を下ろす。重労働だ。慣れない肉体労働と人間関係の苦悩で、柄田昇は体調を悪くしていた。

心と体は繋がっている。心が疲れれば健康も害する。

その日は、朝から頭痛がした。

「いっつう・・・」

手を頭に当てていると、若い上司が怒鳴った。

「おい、荷台に上がれ!」

「え?」

「荷台に上がるんだよ!」

柄田はムッとした表情をすると、荷台に上がった。今まではスーツで仕事をしていた。綺麗なオフィスでデスクワークだ。しかし今はエアコンが効かない外の作業だ。スーツではなく作業着姿で、汗まみれになって重い箱を運んだ。

「もっと速く。そんなチンタラやってたら終わんねえぞ!」

柄田のように50歳の再就職は難しい。しかしもっと悲惨なのは、心ない若い上司のパワーハラスメントだ。少しでも人間の心があるならば、年下から威張られる屈辱は想像できるはずだ。気に食わない従業員を辞めさせるために、わざといじめることもある。実態を知らない政治家があまりにも多過ぎるのだ。

「何やってんだよオッサン! 遅いって言ってんの!」

柄田は荷台から、下にいる若い上司を睨むと、怒鳴り返した。

「おい貴様!」

「はあ?」

「年はいくつだ!」

「何言ってんのおまえ」

柄田は耳を疑った。

「おまえ?」

柄田は荷台を下りると、上司の前に立った。ほかの従業員も緊迫した表情で事態を見守っている。

「俺は50歳だ。おまえは何歳だ?」

「関係ねえよ」

「何歳だと聞いているんだ!」

一触即発だ。

「ふざけんなオッサン! 会社は年齢じゃねえだろ。俺が先輩でおまえが後輩なんだよ!」

「本気で言ってるのか?」柄田の目が危ない。

「本気だよ」

「じゃあ死ね」

「はあ?」

「今すぐ死ね。貴様みたいなクズは生きてるだけで人に屈辱を与える」

上司は柄田を嘲笑した。

「大丈夫このおじいさん?」

「今すぐ死ねというのが聞こえなかったか?」

「舐めんなよおじいさん」

「よし、死ぬ気がないなら、俺が殺してやる!」

柄田がいきなり上司の首を絞めた。見ていたほかの従業員は慌てて止めた。

「やめろ!」

「死ね!」

「やめろ、放せ!」

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