《MUMEI》
怒りのメッセージ 5
賢吾が早くも核心部分に入った。

「1億円の年収やけど、生活費は年間500万円。ワイは算数は苦手やけど引き算くらいは出来るで。残り9500万円や。これを何に使うか。いくら稼いでいるかは問題やない。年収1億とか2億とか、そんな金額で偉さが決まると思ってる人間がもしもいるとしたらな、アホゆうねん」

記者は次の言葉を待った。

「ワイはこの9500万円を困った人のために使ってたんや。無利子貸付でな。あるとき払いの催促なし。ワイからは絶対に、いつ返すんやあ、とは聞かん。あくまでも生活を立て直してもらうのが目的やから」

思いがけない話に、記者は戦慄を覚えた。9500万円というのは大金だ。柄田昇もテレビ画面にかじりつくように見ていた。この男はいったい何者なのかと。

「ええか。一人100万円も必要ないんよ。遅れている支払いを一旦スッキリさせるだけで全然違う。今までの経験から言うとやなあ。だいたいどの家庭も、月給以外で、30万円というすぐに返さなくてもええお金が現金で横からポンと入ったらなあ、生活を立て直すことが出来るな」

30万円は大金だ。記者たちは早く質問を浴びせたくてウズウズしていた。

「で、何でこれを今回発表したかと言うとな。この事業をいよいよ拡充しよう思ったからや。この通り、賛同者も増えて来たし、この日本から貧困を撲滅するために、ジャンヴァルジャン基金というのを創設することに決めた」

柄田昇は興奮していた。夢を見ているのか。これが現実とは思えなかった。

「ドラマではないよな?」

柄田は慌てて新聞のテレビ欄を見て確認した。やはりニュース番組の記者会見だ。

「多くの賛同者からジャンヴァルジャン基金を集めてな、先ほどワイが言うた、一生懸命頑張っているけど、どうにもならん人の生活をサポートする。すでに1億2000万円集まっている」

会場からどよめきが起きた。

「これからも増えるやろう。餓死ゼロ、自殺ゼロの日本を再建するのが目的や。貧困を撲滅すれば必ず犯罪も減る。財源は国民の浄財。これは最強なんよ。人から巻き上げられるのは5円でも負担に思うけどな、基金は自発やから、5万円でも達成感と歓喜と充実感があるねん」

白茶熊賢吾がテレビで言いかけたことを記者たちは思い出していた。これを言ったら国会議員が困るというのは、このことだったのか。

政治家は国民の税金をどう使うかしかない。しかし白茶熊賢吾は何億円という私財を人助けのために使って来たのだ。これではどんな評論家も首長も大臣も討論では太刀打ちできない。

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