《MUMEI》
怒りのメッセージ 8
激村がボールを拾った。

「世界は軍事的競争と経済的競争に死力を尽くして来た。しかしそれで民衆は幸福になっただろうか? 裕福になったか。暴力の20世紀から平和の21世紀になったか。全然なってない。戦争の世紀はそのまま続いている」

「それに経済大国ゆう言葉が前から気になっていたんや」賢吾の顔が赤い。「経済大国1位から3位はどこの国や。アメリカ、中国、日本やろ。アメリカの国民は豊かな暮らしをしてるか。中国の人民はみんな裕福か? 日本は言わなくてもわかるな。経済苦による自殺が毎年7000人とも8000人とも言われてる。どこが経済大国なん? 何を基準に経済大国とかゆうてるわけ?」

記者が無言なので再び激村が語った。

「これからは人道的競争を重視していきたいと思っている」

「人道的競争というのは何ですか?」記者が笑顔で聞いた。

「人道的競争と聞いて嘲笑する冷笑主義の評論家がいることは私も知っているが、冷笑主義というのは悪人以上の悪だ。一番悪い!」

記者たちは焦った。激村が殺意のこもった目になっている。

「私は誠実には大誠実で応えるが、傲慢に対しては力をもって応える。毎日ニュースを見て感覚が麻痺している人もいるかもしれないが、連日のように殺人事件の報道を聞く。殺人事件はなくならない。しかし、諦めずになくさなければならない。凶悪な事件が起きるたびに二度と同じ悲劇を繰り返していけないと言いながら、何度も何度も同じ悲劇を繰り返している」

短ライがマイクを持った。

「本来殺人事件なんか一件もあってはならないんだ。もちろん殺人動機はいろいろある。怨恨はまた複雑だが、動機の一つに貧困があることを、特にマスコミは見て見ぬふりをしてはいけないと思う」

「そうや。貧困を撲滅すれば、ひったくりも強盗も殺人も減少すると思う」

賢吾は前列の記者をいきなり指差した。

「あんたがいくらリッチな暮らしをしててもな、隣人が不幸やったら、あんたの家庭の安全も保障されんのや」

賢吾は、厳しい目で記者席を見回した。

「自分だけの幸福なんて絶対にありえん。せやから全員が裕福になる道、幸福になる道を模索するしかないんよ。それが人道的競争や。こんなに国民のことを大切に考えている国はないってゆう競争なら、世界第1位を喜んで狙いたいもんや」

「経済や政治では解決できない問題がある」激村が言った。「政治や経済で全部解決できると思っている思い上がった政治屋は危険だ。存在自体が凶器と言っても過言ではない。どんなに貧しい境遇の人でもプライドがある。誇りがある。誇りを傷つけられたら17世紀のフランスなら決闘だ。舐めるなと言いたい。言葉に気をつけない政治屋は三流だ。庶民の心を傷つける政治屋は偽物だ!」

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