《MUMEI》
大河の流れ 1
白茶熊賢吾と激村創と丹危雷音は、記者会見を聞いて怒る人間が大勢いるから、苦情の対処の方法を話し合っていたが、予想に反して絶賛の問い合わせが殺到した。

ついに動き出した。

日本人気質は太っ腹という賢吾の読みは当たっていたのだ。もしも自分が大金持ちだったら、困っている人をみんな助けたい。そういう人が想像以上に大勢いて、喜びが爆発したように、協力したいという声が多く届いた。

また困窮している人からも相談が相次いだ。

賢吾たちは準備も万端と整えていた。まずは賢吾と親しい間柄の仲矢真次という男性を呼んだ。彼は課長を経験しているだけに、ジャンヴァルジャン基金事務局の事務局長に大抜擢された。

仲矢は失業後、金のない苦しみ、就職難を嫌というほど経験しただけに、金のない人の痛みがわかる。ジャンヴァルジャン基金のスタッフになるには、これが絶対条件である。

お金のない人の痛み苦しみがわからなければ話にならない。

賢吾と美紀は、ジャンヴァルジャン基金の事務局として使う新しいオフィスで、仲矢真次と会った。

「久しぶりやなあ」賢吾が満面に笑みを浮かべ、美紀に紹介した。「この人がさすらいのギャンブラー、仲矢真次さんや」

「ちょっと待ってくださいよ院長」洒落たスーツに、ノーネクタイの仲矢は、笑いながら否定した。「ギャンブラーというニックネームは適切じゃないですよ」

「そうか?」

「はじめまして、露坂美紀と申します。よろしくお願いします」

「いやあ」仲矢は危ない笑顔で美紀を直視した。「院長は何で美人さんばかり見つけてくるの」

「何言ってるんですか」美紀は照れた。

彼女はきょうもスーツを着ている。

「素敵なお嬢さんですねえ、参ったなあ」

「今年のダービーは儲かりましたか?」賢吾が聞く。

「ダービー? 何それ?」仲矢は目を丸くした。「だって私、競馬なんてやったことないし、馬券の買い方も知らないもん」

「仲矢さん、ちーと痩せたんちゃうか?」

「絞ったんですよ、毎日トレーニングで鍛えてますからね。もう全身バネですよ」

仲矢がその場でジャンプを繰り返すと、賢吾が言った。

「全身バネか。ナリタブライアンみたいやな」

仲矢は突然騎手が手綱を押して馬を激走させる格好をしながら叫んだ。

「弟は大丈夫だ、弟は大丈夫だ、弟は大丈夫だ! 10年ぶり! 10年ぶりの三冠馬! 2着もヤシマソブリンで堅そうだ・・・って何を言わせるんですかホントに」

賢吾は呆れた笑顔。

「相変わらずやなあ。競馬知らん人が何で菊花賞の実況中継のセリフ覚えてんねん」

「誰が天然ですか失敬な」

「元気そうで何よりや」

そこへ、懐かしい人が現れた。劇団をやっている女優の石坂博美だ。



 

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